ライラさんとシィナの復讐
リュイが、警視庁を出た数分後
紅い長袖のドレスをまとった、妖艶な女性が、
「あのぅ。詩姫の第2番 緋色の華宮 ラミア・シィナ・リエルです。ライラさんとミィナちゃんにお話があるのですが。」と微笑む。
「お待たせしました。ライラ・セルトです。」
緊張しきったように、言う。
「そんなに緊張しなくてもいいですよ。ライラさん」
慈愛にあふれた女神のように微笑む。
「お願いがあるのはこちらですから」
と紅茶を一口のむ。
おいしいと顔をほころばせる。
「不躾ながら、早速本題を言わしてもらいますね。」
「はい」
「その子、ミィナちゃんをくださいな。詩姫の祈りに」
とかわいく微笑む。
「それは、この子を歌姫にするということですか。」
机をドンと叩き
「まだ、4歳ですよ。それに、この子は、親に虐待され、殺されかけたんですよ。幸せを知らないんですよ。今から知ることもできるのにそれをさせないのですか!」
ライラの目には、明らかな恐怖。
氷の中に沈められ、暗い海のそこで寒さを耐えた日や、灼熱の砂漠で一人水も無くただ、身を守るため戦った日を思い出す。
「逃者たるあなたは、幸せから転落したから辛かったの。」
冷徹に、シィナが告げる。
「才能はあったのに逃げたあなたに、逃げ道があったあなたに、私の辛さはわからない。私はできたの。あなたができなかったことが。」
「あっ」思い出した。そして気がついた。自分と歌姫の技量を競った孤児のあの子が、詩姫のシィナということに。
じゃあねとでもいうように、手を振りミィナをつれて出て行く。一枚の紙を置いて。
待って。というような形に口を開くが声はせず、伸ばした手は、空を切る。
ただ、涙とともにあのこの幸せを祈ることしかできない自分が悔しかった。
あの辛さに人を送り込んだかと思うと、わが身が憎い。
それから一時間ぐらいしただろうか。
泣きつかれた後、震える手で、辞表を書き、そして、シィナの残した紙に、名前を書き、それを、詩姫の祈りに持っていき、歌姫となった。
贖罪を払うために。
昔、いっしょに、詩姫になろうと結んだ約束を守るために。
自分の代わりに犠牲になったミィナのために。