06 メシア・コンプレックス
「かっっけぇえええ!」
「そ、そこまでか?」
私のテンションに引き気味のムカデさん。でも仕方ない。本気でかっこいいのだ。
黒のストレートな髪は肩までありサラサラと絹のように流れる。
少し憂いのある青年風味の顔立ち。
目は鋭い一重だが、ふちが黒く印象的。紅い瞳がまさに悪魔、という感じだ。
服装は黒無地Tシャツにジーンズのカジュアルさ。首にはシルバーアクセのチョーカー。
高い身長と長い足はもはやモデルさん並である。
「いや~これでぐっとデートっぽくなりましたね。ウッシッシ」
「ウッシッシて!!」
ムカデさんから軽快なツッコミを貰い、満足する。
気を取り直してルーヴル美術館ばりの建物「図書館」の出入り口を見上げた。
ゾウさんでも通り抜けさせる気なのかというくらい大きな口を空けているそれは異様に
恐ろしく見えた。しかしその恐ろしさが、イイ。まるで遊園地のお化け屋敷のようだ。
両脇にはガーゴイルらしき石造が門番をしている。
「おい。腕のやつは外して行け」
「ん?何でです?」
「雑魚や中級程度なら魔除けにもなるが、ここに居る連中相手じゃ神経を
逆撫でするだけで、役に立たん。そこら辺の木にでも吊るしておけ」
「うぇ~?やですよぉ~盗まれちゃいそうですもん」
このミサンガはラミア店長の髪を編みこんである。
外出する際、文字通り「お守りに」と借りたものである。
「魔界に住んでる連中にそんなもん盗む奴はいない。自分の具合が悪くなるだけだからな」
「……うぁ~ぃ…」
渋々返事をし、目に付いたやせ細った木の枝にミサンガを掛ける。
盗まれませんように!と念をしこたま送り込みながら図書館の中へ入る。
外見も広かったが、中は中でこれまたただっ広い。
レトロな作りの木造感覚な内装に、左右前後どこを見ても本を敷き詰めた棚が並んでいる。
中央に受付らしきものが見えたのでそこへムカデさんを引っ張っていく。
「すいまっせ~ん」
「あ、いや……あ、はい…なんで……しょう、か?」
歯切れの悪い受付のお兄さん(?)はあちこちに縫い目の痕があった。
顔色は土気色どころか濃い紫色でまさのゾンビそのものの様相を呈していた。
濃紺の髪は短めに、だが左目は隠すように整えられている。
「人間用の、というか人間が読める本とかありませんかね?」
「…は、い……あの、あ……3階と、4階に…ん…あの、人間の、本が……あり、ます」
「日本人のってどっちの階ですか?」
「さ、いや……3、階…です……けど」
それを聞いて「ありがとうございました~」と言って、受付さんの指差してくれた右奥の
階段まで小走りする。
本を扱っている場所には必ずする、独特の匂いが胸を弾ませた。
このぎしぎしと一踏みごとになる階段もなかなか趣がある。
この中に居るとなんだか魔法が使えそうな気分がしてきた。今ならこの手からホイミくらいは
出るんじゃないか?いっちょムカデさんにでも使ってみるか。
「ホイ……あれ?」
今まさに己の手へMPを集中しようとしたとき、本棚の一角から見覚えのある浅黒い
ふっさふさの尻尾を確認した。本の隙間から三つに分かれた頭も見えている。
これはもしかして、まさかそんな……。
「ワンコさまやぁあああぁああ~~!!」
私の声を聞き、ワンコさまは毛をざわっと逆立てこちらを向く。
ムカデさんはぎょっとして私の口を押さえた。
「ふぁんふやんひぃおむぅ!」
「くっ……またお主か!!」
「何だ?お前ケルベロスと知り合いなのか?」
「ひでぷ!!」
「ひでぷってなんだ?!」
三人でばたばたしていると、誰かが控えめにワンコさまに声を掛けてきた。
「How did you do it?(どうしたの?)」
その優しく響く特徴的な声に聞き覚えがあり、彼女の顔を見た。
「いや……問題無い。お前の店の仲間に会ったので驚いただけだ」
「Oh, is it that person?(ああ、あの人?)」
Hello、と手を振られたのだが口は塞がれているため、手だけで挨拶を返した。
ブロンドの長い髪はゆるくウェーブがかかっていた。
二重の大きな瞳に、白い肌に目鼻立ちのくっきりした端正な顔。
屈託の無い笑顔は実に好印象で、この間まで隣の部屋で悲痛な声を上げていた女性と
同一人物だとは考えがたい程だった。
ライオンさんが好きになるのも頷ける。きっと、強かさと優しさをない交ぜにしたような
この雰囲気が良かったのだろう。実際、私がすこぶるツボに入った。
そうだ。ライオンさんは、どうしただろう。まだ彼女の元へ通っているのだろうか。
「こやつは苦手だ。さっさと帰ろう」
「Such way of speaking rudeness(そんな言い方失礼よ)」
「俺がこいつを抑えておくから、今のうちに行け」
「おお、かたじけない。テンペランス殿」
ムカデさんの名前、テンペランスって言うのか・・・。
考えているうちに、二人は一階の方へ行ってしまった。それを見届けてからムカデさんは
私を抑えていた手を離す。
「お前…あいつに相当嫌われていたが、何をしたんだ」
「いやぁ、ストーキングを少々」
「本当に何してんだお前?!」
「ほっほっほ。それより本を見ましょうや、テンペランスさん」
名前を呼ぶと複雑そうな表情をした。呼ばれると何か不味いことでもあるのだろうか。
それとも単に名前で呼ばれるのが嫌なのか。そこは図りかねた。
__ライオンさんのことは、後でお店に帰ってから聞こう。