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04 自己犠牲※



魔物さんには人間の言葉の種類は関係ないらしい。

英語だろうがフランス語だろうが日本語だろうが普通に理解でき、また相手にも自分の

言葉を普通に理解させられる。ようは翻訳機を内蔵したパソコンみたいなものだろうか。

こちとらこの世界に飛ばされてから娼婦仲間の外国の方から「日本は英語圏」と勘違いされ、

全く分からない英語でぺらぺら挨拶されて困っていたりするのに羨ましい限りである。


「When I am too unpleasant to accept, do not make it hurt!」


だからこんな声が隣の部屋からここ一週間、連日のように聞こえてきてもさっぱり

理解できない。

叫んでる。嫌がってる。泣いている。そのくらいしか分からない。

だけど場合によってはそれだけで十分なときもある。




__次の日。


「いらっしゃいましな~」



ゆるりと、来店されたそのお客の前を塞ぐ。

塞ぐと言っても体格がぜんぜん違うので実を言うと全く塞げてなどいない。

熊よりも二周りほど大きなその巨体に気後れしながらも笑顔を絶やさぬよう努める。

頭は獅子。そこから下は人間と似たような体系だが、爪が鋭く、ライオンの尻尾が

ゆらゆら威嚇するように動いている。

さて困りましたなぁ。レベルが違いすぎる。


「邪魔だ」


軽くどかされただけで抵抗できない圧力を感じさせる。

だがここで怯んでいては始まらないので退かされた拍子にその手を掴む。


「たまには趣向を変えて地味顔を相手してみません?」

「顔どころか体も中途半端のくせに、よく俺を誘える」

「そこが良いってゆうなかなかいきなお客さんもいらっしゃいますよ」

「俺にその趣味はない」

「まぁそう言わず、よーく見てみて下さい旦那!ほれほれ」


無い色気を10%ほど掻き集めて披露してみる。汚いものでも見るかのように険しくなる

相手の表情。確実なる失敗を悟る私。

どん、と人差し指を胸の中央に押し付けられた。その衝撃に一瞬息が出来なくなる。


「失せろ。でなきゃ殺す」

「…それは出来ない相談ってもんです」


押し付けられた指を抱える。

爪が鎖骨に喰い込むが、その痛みは耐えなければならない。

ここを我慢しなければ、我慢しがたいあの女性の叫び声をまた聞く羽目になる。

それは正直ご勘弁です。

刺さった爪のせいで少しずつ血がにじんでくる。ふいにそれをライオンさんに舐め取られた。

生暖かい舌の感触が、これから捕食される草食動物のような不安を私に植え付ける。


「そんなにぶっ壊して欲しいか」


まぁなんてエロティカルでグロテスクな表現。と不覚にもちょっとトキめいてしまった。

自分に少々マゾっけがあるのは知っていたがここまでとは自覚が無かった。

ぐい、と片手で持ち上げられ部屋まで運ばれる。

入ってすぐライオンさんは扉の鍵を後ろ手でかけると、私を壁に押し付けた。


「さて、どう接客してくれるんだ?ん?」

「しょっぱなからアクセル全開はどうかと……ぐえっ」


親指で喉元を圧迫され、息苦しくなる。

随分サディスティックな楽しみ方ですこと。


「お隣さんとも…こんなハードなプレイ、してらっしゃるんですか」

「……あの女、お前になんかチクリやがったのか」


その質問の語尾と一緒に、指の力が強くなる。いよいよ呼吸が出来なくなってきた。

そんな私の表情をしばし吟味ぎんみするかのように眺めた後、ベッドに投げつけた。

咳き込んでいると片手で私の胴体を押さえ付け、顔を近づける。

勇ましい獅子の顔が眼前に迫り、私はびくりと体を震わせた。


「…自己満足ってやつで」

「なに?」

「彼女の悲痛な声がだだ漏れなんですもん。すぐ隣の部屋ですから。それ聞くのヤなんです」

「だからどうした。俺と楽しんでただけのことだろうが」

「いやいや、人間が楽しむときってのは普通泣き叫びませんて」

「てめぇらにいくら払ってると思ってんだ。たかがそれくらいで」

「それくらい?」


ベットに縫い付けられている状態から相手の襟首を掴む。

そこで初めて相手がスーツを着ていることに気がついた。


「だったらこれからは私指名して下さいよ」

「お前みたいな貧相なの指名して、俺になんの得がある」

「ぎゃんぎゃん泣くだけの人よりは、楽しませてあげられると思いますけどねぇ」

「言うじゃねぇか」


襟首を掴んでいる手に更に力を込める。




「いいから私にしとけよ」




それを聞いて何を思ったのか、ライオンさんは私の胸にぐったりもたれ掛かった。

数分ほど経って突然立ち上がると乱暴に扉を開け、そのまま出て行った。

私しか居なくなった部屋の静けさを噛み締めながら頭痛のしてきた頭をさする。

今日は早計すぎた。

反省点はその一言に尽きる。


(ライオンさんは、隣の女性が好きなのか)


やっちゃったなぁ。

愛情表現が下手な部類のお方だったのかそれとも魔物ゆえの習性なのか。

なんにせよ彼にとても痛そうな顔をさせてしまった。

加害者を被害者にしてしまった。

あのスーツは、ライオンさんなりの誠意だったのか。いや私の考えすぎか?



(分からないなぁ。なにせ相手が相手だから)




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