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24 毒喰い



もうどのくらい経つのか忘れるほど長い間、この部屋しか見ていない。

薄暗く辛気臭くてなのに壁の柄なんかには意外と凝った細工がしてある部屋。

首から上しか自由にならないこの生活。

少し動けばジャラジャラと重たい鎖が鈍い音を立てる。

億劫な気分で目を開けた。


「あ、どーもー。お邪魔しとります」

「…………」

「おにぎり持ってきたんですけど、おかかと梅どっちが良いですか?」

「…………」


俺は殺しすぎた。人間も同族も関係なく殺した。

むしろ人間よりも抵抗が面白かった分魔族をよく食った。

そして危険分子と判断され、しかし俺の力は強く存在自体を消すことが出来なかった連中は、

代わりに俺の全身を拘束しこの城へ閉じ込めた。

この城も鎖も特別製で、徐々に俺の力を奪い枯らしていく作りになっている。

このまま朽ち果てるのを奴等は待っているのだろうが、生憎と俺は生命力が桁外れに強いのだ。

おかげで数百数千と年月が過ぎた今でも俺は生き延びている。

いつか絶対ここから抜け出し、俺をこんな風にしたクズ共を皆殺しにしてやる。


「玉子焼き私しょっぱい派なんですよ。もしかしてお砂糖派でしたか?」

「…………」

「でも安心して下さい。ウィンナーはタコさんですよ」

「…………」


もうどのくらい、こうして自分しかいない空間で過ごしただろうか。

あいつらを殺す夢を見ながら眠りに就くのは…


「あ、そういえばここってトイレどこなんですかね?いや今行きたい訳じゃ無いんですけど

 念のため聞いといた方が良いかなぁと思いま」

「あああああう~る~せぇぇんだよテメェ!!何なんださっきからコラ!!」

「貴方のマイフレンド岸本です」

「俺ら初対面だよな!?」


シカトするにも限界が来て声を荒げる。

ちょっと前から視界には入っていたが認識したくなくて無視を決め込んでいたのに、

俺のかっこいいモノローグにあまりにも抜けた声で横槍を入れるので我慢出来なくなった。

首を上げ口を閉じて、くっと喉に力を入れる。

火が体内でくすぶり始めたのを感じてから目標をバカ女に定め炎を吐き出した。

ごうごうと踊る炎で前が見えなくなるまで吐き続ける。

もうそろそろ死んだだろうという頃合で口を閉じ辺りを見渡すと、黒く焦げた石の床

以外はなにも残っていない。

ふん。消炭になったか。

愉快な気持ちになりながら首を下げると、何かが首にこつりと当たった。


「もぉう。リバースしちゃいそうな時はちゃんと言って下さいよ」

「…………」


おいおいおい生きてやがったよゴキブリ女が。

俺の頭の下に隠れてやり過ごしてたのか。

そうだよな俺の真下には火が届かないもんな盲点だったよ。

しかしこの頭悪そうな女にそんな弱点を突かれちゃうと、なんかこう。


「よし殺そう」

「いやん。物騒ですなぁ」

「つかお前なに?ホントなに?」

「貴方のマイフレンド岸本です」

「そのネタはもう良いんだよ!お前頭の病気かなんかなん?!」

「いやぁ。実は貴方をお慰めするべく派遣された娼婦だったりします」

「……娼婦だぁ?」


ああなるほどと胸中で頷く。

どうやら俺をここに閉じ込めた連中は、鎖で体中を縛って封印して誰も近付かないように

城建てたくらいじゃ安心できずに慰め用の人間を寄越してきたらしい。

「コレやるから大人しくしててくれ」ってな具合に。

もう苛つくを通り越して失笑もんだよチキン野朗共が。


「それでですね。ちょっと男の方に貢いでまして、私お金が必要なんですよ。

 このお仕事とっても割が良いのでちょう張り切ってるんです。

 それで張り切りすぎてお弁当が重箱になっちゃったんですけども」


バカ女はだらだら喋つつちょっと照れながら俺に弁当を差し出す。

「デザートの抹茶プリンはクーラーボックスに入ってますからね」とか知らねぇよ。

ってかデザートもあるのかよ。作りすぎだろ。

いや人間サイズだから俺にはまだ少ないくらいだけどさ。

しっかしオモチャ寄越すんならもっとマシなの寄越せよあいつら。


「それよりも何で縛られてるんですか?」

「……テメェに言う必要ねぇだろ」

「あ、いや、ドラドラさんの趣味にケチをつける訳じゃないんですけども、一人SMは

 ご飯食べるときには適さないんじゃないかなぁと」

「一人SMってなんだオイ!んなのしてねぇわ!!

 いやそれよりドラドラさんて俺のこと?なぁ俺のことなの?!」

「頭が二つあるドラゴンさんなので、ドラドラさんで」

「お前のネーミングセンス……っ」


もう駄目だ殺そう耐えられない。

今度は右の頭の口から毒の息を吐き出す。

緑色の煙がもうもうと周りに広がり、バカ女の顔色が見る間に悪くなっていく。

それをいい気味だと眺めながら尚も毒を吐き続ける。

しかし気になるのは一回口元を覆ったくせにすぐさまそれをやめたのが分からない。

普通口や鼻を毒から守るように覆うのは当たり前の行動なのに何故。

まぁ良いかもうこいつ死ぬんだし。

しかしバカ女はしぶとく、半ば這うような形になりながらも出入り口へ辿り着いた。

それを見て焦った俺はすぐ左の頭から炎を吐き出すべく喉に力を入れたが、


「ゲップは生き物の生理現象ですからね。私気にしてないですよ」


バカ女のこの一言でぷすんぷすんと情けない音を立てて不発に終わってしまった。

挙句「また来ます」だとか不穏な言葉を残して去っていった。

あれだけ毒の息を吸い込んどいてなんで無事なんだとかアレはゲップじゃねぇとかよりも、

切実にもう来ないで欲しいとこの俺に思わせるあの人間が気味悪くて仕方なかった。


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