23 野蛮な勝利者
現状が現状なだけに、救い出しましたさあハッピーエンドとはいかない。
元の場所に帰るまでの住居や仕事の確保も当然必要になってくる。
先頭を歩いていたラミア店長がふと足を止め、こちらを振り返る。
「…あたしにツテがなかったらどうする気だったの?」
私が働いている娼婦館と似た雰囲気の建物の入り口で店長がぽつりと零す。
ここは店長が木戸さんの働き口として紹介してくれた場所だ。
どうするも何も、魔界に迷い込むのが女性限定だとは考えにくいし、男性も迷い込んで
いるのだったら店長が女性だけ助けて男性だけ放置しないだろうし。
けれど私達娼婦の身近に人間の男性の気配は無い。
だったら別館があってそこで保護しているか、男性を保護している場所に顔が利くかする
んじゃないかと当たりを付けていた。
そしてこんな風に最後には店長に頼ろうと思っていたので、木戸さん救出作戦の時まで
迷惑を掛けたくなかったと吐露する。
「…本当あんた…ホント、時々すっごく可愛く無いわぁ」
ちょっとしょんぼりした気分で店長の言葉を受け止めていると、木戸さんが私の袖を軽く
引っ張った。
「マジすっげ。うはは。周りがグロキモ可愛い。なにこれ3D?3Dメガネ効果?」
「木戸さん3Dメガネかけてないですやん」
「あー緊張するー。ここって晩餐館の焼肉のたれ置いてるかなぁ。あれ無いとご飯進まない」
「それ分かりますわぁ。私もキューピーマヨネーズが無かった時叫びそうになりましたもん」
「ああ駄目だねそれ。俺なら泣きマンジェロ」
「実際私は泣きマンジェロ」
会話がヒートアップしてきた所で店長に「ウザいからやめて」と一喝される。
建物の中もやはり私が住まわせて貰ってる娼婦館と似通っていて、一階に店長の仕事部屋が
あるのまでそっくりの内装。
けれど接客をしているのは皆男の人だった。
ラミア店長がドアを軽くノックするとすぐに中からこの店の店長らしき男性が慌しく出てきた。
「ママ!」
嬉しそうに叫びながらその人は店長に思い切り抱きつく。
黒髪の眠そうなたれ目に黒ぶちメガネの雑誌モデル系のイケメンさんは、赤チェックの
ジャケットを難なく着こなせるさわやか系の見た目だった。
若干迷惑そうな表情でラミア店長はその人を受け止める。
ひとしきり店長に甘えた後、黒ブチさんはこちらに気付き顔を強張らせた。
「ママ、誰こいつ」
「さっき連絡したでしょ。預かって欲しい子連れてくって」
はぁ?と心底嫌そうな声を出しながら黒ブチさんは私を値踏みするようにじろしろ観察し、
首を横に振る。
「ち○こついてない奴は嫌いだ」
「店長、この人今なにか…」
「気のせいよ」
「全世界のママ以外の雌は絶滅すべき」
「やっぱりなんか仰いましたけど…」
「空耳よ」
「てかお前、ママと親しいってアピールすんのやめろよ」
「いやいやまさか。してないですよそんな恐れ多いこと」
「お前みたいな底辺女がママと並ぶと見るに耐えないんだ自重しろ」
「お目汚しすいません」
「……えらく素直だな。そこは、まぁ評価してやるけど」
何だか知らないけれど良い評価貰えました。
って言うより何か可笑しい。話題の中心が私になっている。
ここにお世話になるのは木戸さんであって私じゃないのですけれど。
困惑しながら木戸さんの方を向くと、先ほどまで居たはずの木戸さんが居なくなっていた。
ああそれで私と勘違いなさったんですか。
いやいや、うん。あれ?
「店長!木戸さんが見当たりません!!」
「は?どこ行ったの?!」
部屋を出て廊下を見渡す。
何人かが訝しげにこちらを見ながら通り過ぎていったが、木戸さんらしき人は居ない。
「木戸さん!!」
「う~す」
堪らず大声を出すと、木戸さんは少し離れた所のトイレからひょっこり出てきた。
「いやぁ、ここ男ばっかだから女子トイレとかあんのかなぁって覗いてま」
「バカタレ!!」
「すいません!」
木戸さんの緩い返答に店長が怒鳴った。
我が道を行く木戸さんかっこいいですよと発言したら店長に叩かれそうなので黙っておく。
ラミア店長はお説教モードに突入し、場所が廊下にも関わらず木戸さんをその場に正座させる。
これは一時間は動かないなぁと傍観していたら黒ブチさんも横で一緒にその様子を伺っていた。
そしてにっこり満面の笑顔を浮かべた後、
「不思議系か。合格」
と書類を用意しはじめた。