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22 セッションエラー



「何で店長とお前がこのトカゲ野郎に……ってたか知らんが、後で覚えてろよ」


重要な部分を濁して喋るムカデさんが相当腹に据えかねている様子は伝わってきた。

覚えてたくないですとは言えぬ雰囲気に苦笑いする。

あ、にじってる。

トカゲさん踏みにじってるムカデさん。

店長のアレは衝撃だったんだろうなとは思うがやりすぎですよ。

そんな風に文句を言ったらあの位で魔物が死ぬかと返された。


「おい何だこれ。授業参観?」

「似たような感じになってきましたね」


後ろでラミア店長と美人さんがボソボソと第三者位置で喋っているけど、店長はばりばり

当人なんですよ?

苛々マックスなムカデさんがいつの間にか先頭に立ち扉を勢い良く開けた。

というよりぶっ壊した。

綺麗に回転しながら吹っ飛んだ扉が、中に居たとろけるゾンビさん達の足元に転がる。

交渉中のお方がこちらを一瞥し、あからさまに嫌そうな顔をした。


「やーだ。誰こいつらぁ」


ぞろぞろ動く下半身は蜘蛛で、上半身が人間の女性、黒地のゴスロリ服を着ている。

髪は黒髪ツインテールで顔は童顔……か?

蜘蛛のように赤く点々とした目がこちらを映している。


「その人下さい!!」


相変わらず目隠しされ猿轡噛まされてる木戸さんを見て堪らず叫んだ。

びくりと木戸さんの肩が跳ねたのは、私だと分かって貰えたからだろうか。

周りに誰も居なかったら抱きつきたかったですなぁ。

興奮気味な私を抑えて店長がとろけるゾンビさんに何か説明している。

ぐるぐるに縛られている木戸さんの服がぼろぼろで、早く持って帰りたい衝動が沸く。


「で、いかほど出して頂けるんで?」


とろけるゾンビさんが嬉しそうに店長に返事をする。


「ちょっとぉ。だったらあたし2000出す」


すかさずゴスロリ蜘蛛さんが上乗せしてきた。


「ならこちらは2100出しましょう」

「3000」

「3100」

「しつっこい!3500!」

「……3600」


まじウッゼ、とゴスロリ蜘蛛さんが忌々しげに吐き捨てる。

釣りあがる値段に私の心臓が痛くなる。

この場で上機嫌なのはとろけるゾンビさんだけだった。


「5000…やっぱ5500」


ゴスロリ蜘蛛さんのこの一言で辺りがしんと静かになる。

ああ、駄目だと瞬間的に思った。店長の苦そうな顔が目に入る。


「6000」


沈黙を破ったのはムカデさんだった。

その言葉にお腹がきゅっと窄まる様な奇妙な感覚がした。


「…ムカデさん、私そんなに出せませんです」

「このくらい奢ってやる」

「いやいやそれはっ」

「うるさい。面倒だから黙って庇われてろ」


ここはキュンとなる場面だろうが、金額の事を思うとドキンではなくゾワっという効果音が

脳内に鳴り響く。

耐えかねる緊迫感に何度も深く息を吸って吐いた。


「もーやだ。死ね死ね。あんたら死ーね!」

「では私達が落札…」

「7000!」


ゴスロリ蜘蛛さんの叫びにどっと嫌な汗が噴き出す。店長もムカデさんも黙ってしまった。

木戸さんを持っていかれる。

足が震えだして立っているのが辛い。

吐きそうになって口元を押さえた辺りで美人さんが私の腕を掴んで支えてくれた。

心許ない心境のまま美人さんの顔を伺う。


「俺の契約相手に処女の女二人いるけど、欲しい?」


皆驚いた顔で固まって、少し時間が経ってからとろけるゾンビさんが嬉しそうに声を上げた。

それこそご満悦の表情で奴隷譲渡用の書類なんかをすぐに持ってきてくれた。

ゴスロリ蜘蛛さんは口汚くなにか怒鳴っていて、それが逆に勝てたという安心感を私にくれる。

放心状態の私に店長が「抱きつきなさい」と囁きかける。


「いや、え?」

「早く。あのお客様に抱きつきなさい。今すぐ!」


大きい声を出されて思わずはいと返事をして美人さんに抱きつこうとした。

が、頭を掴まれぐっと突き放される。


「きんもいんだよ。近付くな」

「いや感謝の気持ちを身体で表現視ようと」

「すんなそんなもん。さっさとあの人間回収してくれば?」

「いやその前に喜びを身体で」

「しつけぇ!!バカかお前!!」


ちょっと店長話と違うんですが。

ラミア店長の方を見ると「おかしいわねぇ」と腑に落ちない様子で首を傾げていた。

ムカデさんに背中を押され店長に頭を撫でられ美人さんにしっしっと犬を追い払うような

仕草で行くように促され、私は木戸さんに駆け寄った。

猿轡をまず外して目隠しをゆっくり取る。

木戸さんは驚いたように私を見て、私はそれに笑って答えた。


「この間送ったイチゴ美味しかったですか?」

「あ、美味しかったよ。あれどこ産?」

「ぐふ。実はあれウチで作ったんですよ。無農薬有機栽培です」


久しぶりの私達の会話は店長達に溜め息を吐かせた。



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