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20 貪欲な者は欠乏する※



「私達を目的地まで運んで下さい!!」


最悪のタイミングで最悪な頼みごとを目の前の方にする。

これ私、腕一本足一本捥がれても文句言えない気がするんですけども。

私がほぼ床に身体がくっついたような土下座を披露している先には、服を脱ぎかけベットの

上で睦みあう最中だったお二方が呆然とした表情で静止している。

今日来店されているお客の中で羽を持っている人はこの人を入れてあと二人しか居ない。

いや実際にはもっとたくさん居たのだがにべもなく断られ続けた。

入り口に近い順から部屋を回っていたので「今度はこの部屋の番」とラミア店長に促され、

断頭台へ上がるような心持でこうやって土下座をしている現在に至る。

本来ならば除外すべき選択肢だったが、如何せん後が無いし時間も無いしで手段を選んで

いられなかった。


「こ……っろす!」

「インフレイム待って!ちょっと待って!!」


キレた美人さんを必死に押さえ付けているキャビアちゃんの様子が、頭を下げた状態でも

容易に想像出来た。

当然である。

「指名しないで下さい」とかぬかした女が再び目の前に現れただけでも不愉快だろうに、

さらに恋人との甘い時間を邪魔され面倒そうな頼みごと押し付けられそうになれば誰だって

キレるだろう。

断られるだけで済むなら御の字。

悪くて身体のパーツを一部分献上せざるをえなくなりそうな状況下だ。


「図々しいお願いとは自覚しております。ですが今」


ゴッ。


私の頭に美人さんの足が乗せられる。

かなりの力で踏まれたので、その痛み小さくうめき声を上げた。

傍から見たら主従プレイに見えなくもない体勢ですねこれ。


「マジなんなのお前。どのツラ下げてここ来たおい」

「やめてって!やりすぎだって!」

「……すみません。でもちょっと、あの、どうしても美人さんにお力添えして頂きたく」

「は?美人さんて誰のこと?なに、もう俺の名前忘れちゃったんだぁ。ん?」

「インフレイムさん、何卒ご協力のほどお願い申し上げます」


頭を踏む足に力が篭もる。

キャビアちゃんが美人さんを非難する声が耳に痛い。

本当なら私こそ非難されて然るべきなのだ。

いやでもそれを差し引いてもあんよを人の頭に上げるのは宜しくないですけどね。


「……お礼に何かくれんの?」


正直、断られるのなら断られるで良いと思っていた矢先にほおられた言葉にどきりとする。

人間ができる範囲でならという考えが通用しそうも無い相手に、安易に報酬を渡す約束を

するのは部が悪すぎる。

しかも相手は美人さんで、悪魔さんだ。


「考慮つきになってしまいますが、どんな要求にもなるべく答えられるよう努力致します」


答えたのはラミア店長だった。

勘弁してください店長。処女100人とか私の命とかドラゴンボールとか要求されたら

どうするんですか。

非難がましい目を店長に向けるが、軽く流されてしまう。

ふんと美人さんが鼻で笑う。

ゆっくりと頭から足が離れて、キャビアちゃんが私を覗き込む。


「あ~…真っ赤になってる」

「痛っ、あたっ!キャビアちゃんちょっと、何で指でぐりぐりやるんですか」

「だから早めにインフレイムに謝れって言ったじゃん。馬鹿」

「いやぁ……その節は、どうもすみません」

「でもこれで、三人で仲良くやれるかも」

「まだそれこだわってたんですかキャビアちゃんたら」

「だって、アンタもインフレイムも欲しいの。欲しいんだもん」


可愛いこと言いますなぁと惚ける反面、三人仲良くは有り得ないと内心でかぶりを振る。

むしろこの場で殺されなかった事が奇跡に近い。


「勝手にイチャついてんな」


腰に手を回され、キャビアちゃんと一緒に勢いよく抱き上げられる。

右手にキャビアちゃん左手に私という構図である。

何が楽しいのか、酷く満足げな美人さんに困惑しつつ店長に救いを求め視線を寄越すと

やっぱり軽く流された。

美人さんはキャビアちゃんに軽く口付けして「行って来る」と伝え、その場に降ろす。

対して私には「さっさと動け」と腰を掴んだまま強引に歩かせた。

キャビアちゃんの部屋を出て階段を下りたあたりで、店長が私達を手で制した。

階段の影から覗くと、ムカデさんが出入り口に居るのが見えた。


「ぐぅあ、ムカデさん早い…」

「ちょっと時間を掛け過ぎたわね」

「裏口から行きます?」

「めんどくせ。もうこっから行けば良いじゃん」


こっからってどこのことですか、と聞こうとして美人さんのほうを見ると、

みしみしと嫌な音を立て背中から骨格が変化し羽が生え、手が鉤爪状になり、

猛禽類の目がぎらつく姿に変化していった。

そういえばラミア店長から見せてもらったリストに、美人さんの種族が書いてあった。

確かグリフォンとかなんとか。


「さっさと乗れよ」


不機嫌そうに美人さんが一鳴きする。


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