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16 腐食するじかん



「目が、目がぁあああ…」

「ちょっと、気が散るからやめてよ」

「毛糸絡んでますよ岸本さん」


現在PM10時、場所はキャビアちゃんの部屋。女三人でマフラーをひたすらに編む。

厳密には三人ではなく私とキャビアちゃんの二人がひーひー言っているのだが。

チェ・ジウォンさんは既に全部編み終わって、私たちにアドバイスをしてくれている。

クリスマスシーズン。一人の娼婦に対して先着5名までの指名客にマフラーをプレゼント

するのが恒例行事なのだそうだ。この企画はかなり好評らしく、

毎年目当ての娼婦のマフラーを貰おうと早期予約が殺到するらしい。

一人マフラー五つのノルマ。しかも期限はクリスマスまで。

こういったものに慣れている人は良いが、私やキャビアちゃんのような初心者には

大変厳しい。

夢中になりすぎると瞬きを忘れてしまいがちになる私は目が乾燥して涙目になっていた。


「もーやだ。こんなん彼氏にだって編んだことないっつーの」

「そういえばキャビアちゃん、インフレイムさんは先着に間に合いました?」

「間に合ったっていうより、間に合わせた。あいつこうゆうの興味無いんだもん」

「え?インフレイムさんて、愛美さんの恋人なんですか?」

「え、ああ……恋人っていうか……まぁ、恋人、です」


ジウォンさんの言葉に照れながら惚けるキャビアちゃん。

その幸せそうな表情にごちそうさまですな気分になりながらまた編み物作業を続行する。

ちなみに私の先着5名様限りマフラーは全てポニーテールちゃん行きが決定している。

「これ以上あなたにポイント稼がせてたまるもんですか」だそうです。

本来ならお一人様一つまでとなっているはずなのに、どう手を回したのだろうか。


「ちょっと気になったんだけどさ、あんたってどんな人間なら嫌いになんの?」


編み途中のマフラーを置き私に質問してくるキャビアちゃん。


「ええ~?こうゆう時って普通恋バナとかするんじゃないんですかね?なぜに

 私の嫌いなタイプを聞きたいんですか」

「あの、私もそれ気になります」

「ええ~?」

「良いじゃんか。ちょっと気になったの。早く教えてよ」

「嫌いな……ぬぅ~~ん…」


下を向きっぱなして疲れた首を、拳で叩いてマッサージしながら考える。

嫌いというのは印象的な問題の方か、それとも生理的な嫌悪の方面のことを言えば

納得してもらえるのか。

嫌うということにそれ程エネルギーを費やせた覚えの無い自分の人生において、

なによりも耐え難いと思ったものは……


「カニミソですな」

「食べ物じゃん!!」

「いやぁ、でも他に心当たりがないもんで」

「岸本さんて、マザーテレサでも目指しているんですか……?」

「そんな大層なお人みたくなれれば嬉しいですけどねぇ」

「他になんか無いの?これだけは駄目!みたいな」

「ええ~?……両親や友人を殺されたりしたら、嫌いになりますけど」

「そんな最終局面じゃないと無理なの?!」

「…そこまでされて嫌いにならなかったら、逆に引きますよ……岸元さん」

「そう言われましても……あ!カニミソみたいな味がする人ならあるいは…」

「どんな人間だよ!!」


駄目だこいつ、とキャビアちゃんから呆れた声が返ってくる。

時計を見るともう12時になっていた。

小腹が空いてきたのでポテトチップスでも食べようかという話になったのだが、

こんな時間に高カロリーの物を食ると太るよ、とジウォンさんが野菜たっぷりの

おじやを作ってくれた。なんという女子力。


「ヤバイこれ、超美味しい」

「冷蔵庫の中の野菜、けっこう使っちゃたので、明日お返しに来ますね」

「別に良いよそんなの。これ美味しいし」

「ジウォンさんてダイエッターなんですなぁ。なのに胸は相当あるみたいですけど

 その秘訣教えて頂けませんかね」

「え?!」

「そう言われると、ジウォンておっきいよね」

「サイズはお幾つで?」

「あの、あ……Fです」

「「でっか!!」」


そんなサイズはグラビアアイドルとか関取さんだとかのものだと思っていましたよ。

むしろそんなサイズフィクションだと思ってました。

服装のせいでそんなに胸が目立たなかったので、そこまで大きいとは分からなかった。

ジウォンさんが「ちょっと自慢なんです」と小さな声で呟く。

その可愛さはそれこそ犯罪級で、全国に指名手配されるんではとちょっと心配になる。

メイクはコギャル風味なのに性格は謙虚で大人しいとか、心臓が誤爆しそうです。


「私中学のとき太ってたんですよ。それでダイエットして、でも胸は痩せないように

 色々工夫したんです」

「おお~。さすが」

「うそぉ。ジウォンが太ってるとことか想像付かないんだけど」

「写メありますけど、見ます?」

「え、見たぁい!すっごい見たい!」

「えっと……これなんですけど」


ポケットから取り出した携帯を渡されて画面を見る。

セーラー服を着た女の子が4人、各々ポーズを取りながら写っていた。

ジウォンさんらしき人物は奥側に写っていたが、確かに今よりも太めではあった。

しかし「太っている」というよりは「ぽっちゃり」の形容の方が合っている気がする。


「かわいい~」

「もう4年くらい前のやつですけど」

「あれ?ジウォンて何歳?」

「18歳です」

「え、あたしより年上?!同じくらいかと…」

「じゃあ私より年下なんですねぇ」

「「え?!!」」

「えって何ですか。私20歳なんですけども。大学生ですよ」

「ハタチ?!見えねぇええ!!あたしと同じか、もしくは年下だと思ってた!!」

「私も……岸本さんは高1くらいだとばかり…」

「ここって喜ぶとこなんですかね?」


わいわいきゃっきゃしてる間にポテトチップスの袋を結局開けてしまい、さらには

コーラなんかも出してきて飲む始末。

カロリーを控えるという事はおろか、当初の目的であるマフラー作りは

最初の2時間ちょっとしか作業をせず、いつの間にか朝方になっていました。


そういえばテスト期間に友達同士で集まると、いつもこんな感じでしたなぁ。


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