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14 色欲イニシアティブ※



どうも。チェ・ジウォンです。

昨日は大惨敗でした。

三つ頭のある犬を満足するまで追い掛け回した後、岸本さんは出張サービスのため

外へ出て行かれました。お店で接客する通常のケースより指名額が高くなるので

あまりそのサービスを使われるお客様はいないと聞いていたのですが……。

岸本さん侮れません。

結局帰ってきたのは夕方7時頃で、それからはテレビ見たりお風呂入ったりして

お肌の手入れ後、10時に就寝されました。

なんの収穫も無く私も部屋へ帰って休む事に。溜め息が出ました。


しかし今日こそは岸本さんの必勝法を掴んで見せます。

がっつり朝食を取った後、岸本さんの部屋へ直行しました。


「パンツ見せろ」


覗ける程度に扉を開けた途端聞こえてきた台詞に、心臓が止まりそうになりました。

昨日といい今日といい、岸本さんに関わってると恐ろしい発言が多くて困惑します。

なにかこう、相手にそんな発言をさせる何かが岸本さんにはあるのでしょうか。

もしそうだとしても私はそんなスキル欲しくありませんが……。

岸本さんとは違う、そのボーイソプラノの声の持ち主を確認すべく隙間から目だけ動かして

左右を確認します。


「まぁ良いですけど、何で私なんですかね?もっと美人な方が沢山いますよここ」

「うるさいな。美人相手じゃ緊張しすぎてじっくり見れないだろ」

「ああ、なるほど」


いやなるほど、じゃないです岸本さん。それにパンツは見せちゃ駄目です。

岸本さんと向き合うように椅子に座っている今回のお客様は、身長が低く声が高い。

多分子供、それも男の子のようです。

なぜかブルーグレーの西洋の鎧で全身を包んでいて、顔は見えません。

そのせいでちゃんとした年齢は定かじゃありませんが、身長的に13歳前後だと思われます。

少し動くたびに鎧特有の重苦しい音がしています。


「じゃあ今脱ぎますんで」


えぇ?ちょっと、岸本さん本気ですか。パンツ見せるんですか。

あ、ベルト外した。どうしよう本気だ。止めるべきだろうかどうしよう。

混乱しているうちに鎧を着た子供が「待った」と岸本さんの脱衣ショーを静止しました。

助かった。私は脱力して壁にもたれ掛りました。


「スカートとか無い?…それを脱いで見せるのは、ちょっと……エロすぎる」

「ほほぅ。なかなか粋な感性を持ってらっしゃいますなぁ」

「ケンカ売ってんのお前」

「着替えて来ましょうか?スカートに」


岸本さんの今日の服装は黒のロングTシャツにジーンズのストレートパンツ。それから上着に

黒と白のボーダーのカーディガンでした。

しかし岸本さん、アグレッシブすぎる。驚きすぎて心臓が痛い。

意外と貞操観念の軽い人なんだろうか。

鎧の子供はしばらく悩んだ後、左右に首を振った。


「……やっぱ無理っぽいなぁ」

「色気の無い私でも駄目なんじゃ、道のりは遠いですなぁ」

「お前それ自分で言っちゃうんだ」

「なんなら次は胸から攻めてみます?」

「胸…ムネねぇ……」

「そのくらいは平気にならないと、人間と契約する時きついと思いますよ」

「分かってるけどさ。得手不得手ってもんもあるじゃん?」


どうやらあのお客は魔族なのに性的なものが苦手で、

それを克服するために娼婦の中では比較的貧相な(ごめんなさい)岸本さんを練習台に

指名したらしいです。

まだ子供なのだからあの位純粋なほうが良いのでは、とも思うが、魔界の住人としてはそうも

いかないのかも知れない。

なんて考えているうちに岸本さんが鎧に包まれた手を取り、自分の胸へと押し当てた。

「うぉい!」と私の心の声と鎧の子供の叫び声が重なった。


「やわ、らかい!無理!!ギブギブ!!」

「そう言わず。あと5秒くらいは我慢して下さい」

「ぐぅぁっ……きっつい!!」


ぐいっと渾身の力を込め腕を引く子供。

そのせいで腕の部分、肘から先の鎧が外れてしまった。

しかし鎧が外れてしまったことより、中身が空洞になっていることに驚愕しました。

どうやらそういった系統の魔族の方らしいです。

でもそうなると、どこから声を出してるんでしょうか。素朴な疑問です。


「あ、すいません。取れちゃいましたねぇ」

「……返せ」

「はいはい。怒らなくても返しますよぅ」

「別に腕取れたこと怒ってんじゃないし。お前ほんと、恥じらいとかないのかこの痴女」


岸本さんから乱暴に腕を取り上げると、元の場所にガチリと嵌め込みました。

私はお客の言葉に何度も頷いていました。

女性なんだからもう少し羞恥心だとか貞節だとかを持って頂きたい。

大体相手は子供(?)だし、ここが魔界じゃ無かったら犯罪に等しいレベルの行為です。

岸本さんはそこら辺もっとしっかりしたお人だと思っていたのですが……。

しかしそのがっかり感も、次の言葉でキレイに吹っ飛びました。


「私の恥じらいよりも貴方の方が大切ですからねぇ。大目に見てやってください」


満面の笑みを浮かべる岸本さん。

日常会話などではだらしくなく見えるであろうその表情は、この状況下であの台詞の後

だとなんだか可愛く見えた。これぞ岸本さんマジック。


「……かか、か、帰る!帰る!!」


鎧の子供は慌てたように席を立ち、扉のほうまで向かってきた。

すかさず近くの柱へ身を隠す私。

「まだ一時間経ってませんよ」と岸本さんが引き止めるが、お客は小走りにその場を

立ち去って行きました。

岸本さんはうな垂れ、重い溜め息を吐いていました。

どうやら失敗したと思っているようですが、あのお客様は遅かれ早かれ

また岸本さんを指名しに来る気が私はします。

そんな事を考えながら柱の影から岸本さんを覗いていたら、ふと目が合ってしまいました。

どうしましょう。この体勢じゃ明らかに私、不審人物です。


「どーも。こんにちわ」

「あ……こんにちわ」


どんな質問をされるかと身構えていたら、実にあっさりとした挨拶で返されました。

どうやら疑われてはいないようで安心しました。


「今日も私の尾行ですか?ご苦労様です」


……前言撤回です。私が付けまわしていた事、完全にばれてます。


「い、つから……あの…知って…」

「いやぁ、こんな可愛い子が近くに居たら、普通気が付きますよ」


にっこり笑う岸本さん。

その言葉に、ぐわぁっと顔が熱くなりました。

岸本さんはそれじゃあと言って自室へ戻って行きます。

その背中を眺めながら、今までうすらぼんやりしていた事が確信に至りました。


私はメモ帳に「一撃必殺」と書いた後、その文字に赤ペンで二重線を引きました。


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