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13 私の見た秩序



初めまして。私はチェ・ジウォンと申します。

国籍は韓国です。年は18歳。

髪は明るめの茶髪に染めてしまいましたが元は黒。今日は気合入れて髪アップにしてきました。

もうこの「魔界」とか呼ばれる場所で娼婦をして3年くらいになりますが、

なかなか成績が伸びません。

人見知りはしない方だし、顔にも接客にもそれなりに自身があったので正直ショックです。


そこで最近入ったばかりなのにやたらと指名率の高い、岸本さんとやらを参考にさせて

貰おうと思って今日・明日と二日間オフにしました。

ちなみに一ヶ月ごとに指名数を棒グラフで表したものを各階の廊下に張り出すので、

それで岸本さんのことを知りました。

娼婦が休日を欲しい場合は、出入り口と部屋の扉に休業の札をかけてラミア店長に報告する

だけなので簡単です。

休みを取りすぎると自分の首を絞めるだけなので、あまり連続しては無理ですが。

あ、そうこう考えているうちに岸本さんが食堂に入ってきました。

まさか向こうからやって来てくれるなんて好都合です。

岸本さんの斜め後ろ辺りの席へ慎重に移動します。……はい座りました。

気付かれてません。成功です。

しかしその成功を喜んでいる暇も無く、突然食堂にガシャンという音が響きました。

私はびっくりして硬直してしまいました。


「どういうつもり」


低く威嚇するような女性の声がします。

学校ではクラスの中心部にいそうな茶髪セミロングの美人が岸本さんに詰め寄ってます。

どうやらさっきのガシャンは彼女が皿の乗ったトレイを乱暴に置いた音だったようです。

しかし岸本さん、食べてます。クロワッサンから手を離す気配がまったくありません。


「ちょっと人の話を、ちょっ……食うのをやめろ―――!!」

「ふんぐぅわ、うんぐぅわ。ひふふ?」

「何言ってっか分かんね―――!!」


ダァン、と彼女は両拳を机を叩きつけました。

岸本さんはそれでも食べてます。しかもクロワッサンは終わってサラダに取りかかってます。

早食いは身体に良くないですよ。


「…あんた、インフレイムに何言ったの」


乱れた呼吸を整えながら再び質問。しかも誰かの名前が出てきました。

修羅場な予感です。

それと私、日本に留学しようとしてましたので日本語の勉強はばっちりです。

この方たちのお話しは全部理解できてます。


「ん~?もう私を指名しないで下さいと言いましたが」

「なんでそんな事言うわけ?あたしに遠慮してるつもり?!」

「いやぁ、インフレイムさんよりキャビアちゃんの方が好きってだけですよ」

「ふざけんな!そんな理由……っ、え?」

「あいらびゅーキャビアちゃん」

「二度も言わなくていいから!!」


なんかいまいち展開が掴めません。キャビアちゃんというのはあの美人な女性の名前?

いやそんな可哀相な名前付ける両親が存在するわけないので、愛称か何かでしょう。

要はインフレイム←キャビア←岸本←インフレイムという図なのでしょうか。

昼ドラ真っ青などろどろシチュエーションですね。


「べ、あ、たしは……別に、あんたとインフレイムとなら…別に」


三人で付き合ってもいいのに、とごにょごにょ言い出すキャビアさん。

なんと、二股に肯定的ですと?!

気の強そうな彼女にここまで言わす岸本さんて一体どういう……。


「まぁまぁ。プライベートなお話しはまた今度しましょうよ」

「あんたがインフレイムに謝れば、すぐ済む話じゃん」

「そこらへんも兼ねて、また今度ということで。お互いお客様の予約が入ってることですし」

「……あと15分あるし」

「私は3分もありませんのですよ。残念ながら」


ね?と岸本さんはキャビアさんを納得させ、二人は食堂を出て行きました。

私もすかさず後を追います。

しっかしあの人たちの話に夢中になりすぎてクロワッサン食べ逃してしまいました。

朝食抜きでしょっぱなからハードな岸本さんのスケジュールに付いて行けるでしょうか私。

不安を抱きつつ尾行します。

階段の所で二人は別れた後、岸本さんはでっかいムカデを部屋へ迎え入れてました。

いやぁああ無理!!私、アレ系は、虫系は全然無理!!

そこも岸本さんの強みなのでしょう。私はああいった視覚的に優しくない方は出来るだけ

避けるか人型になって貰うかしてしのいで来ました。

扉が閉まった瞬間、すぐさま聞き耳を立てます。

しかしごにょごにょ聞こえるだけで内容がよく分かりません。

こうなれば多少危険ですが、扉を少し開けて覗くしかありません。

大きな音を立てないように細心の注意を払い、ゆっくり開けます。


「さっさとラミア店長に告白したらどうですか、ムカデさん」


途端に爆弾発言が耳に飛び込んで来ました。

どうやらあの大ムカデのお方は店長に好意を寄せているようです。

大ムカデの口からお菓子のクズらしきものがポロポロと自由落下しています。

岸本さんはそれ見て、大ムカデの口をティッシュで拭き始めました。


「お前……いつから…」

「ムカデさんが店長を意識し始めた頃からですかねぇ」

「相当最初からだなおい」

「もう早く告って下さいよぉ。私を当て馬にするもんだから、ムカデさんを好きな方に

 ボッコボコにさたんですよ。あやうく目覚めるところでした」

「……すまない。……目覚めるって、何に」

「ぐふ。聞きたいですか?」

「いや、いい」


話しが脱線してきています。なぜ店長に告白する話しからMの目覚めへ流れが行くのか…。

そしてここでトラブル発生です。

覗き見していた所を通りがかりのラミア店長に見られてしまいました。

「ちょっといらっしゃい」と首根っこ掴まれて引きずられる私。

あああ気になる。あの話の続きはどうなるんでしょうか。

そんな事を考えながら上の空で話を聞いていたら、ラミア店長をもっと怒らせてしまい

お説教3時間コースへ突入してしまいました。

話しが終わり次第、急いで岸本さんの部屋の前へ戻りましたが、

どうやらもう大ムカデの方は帰ってしまったらしく、別のお客様がいらっしゃいました。

くぅ。続きが聞きたかった。無念です。

今度のお客はでっかいサソリに人間の頭をくっつけたような方でした。

そういえば岸本さんが前に、このお客様を出入り口の前でナンパしていたのを見た気がします。


「ばっかお前、それはもう横綱とは言えないだろ」

「一人相撲とは、一人相撲とはなんなのでしょうか」

「簡単さ……恋のターニングポイントってことだ、ろ?」

「さ、サソリさぁぁあああん!!」

「おいおい、サソリさんなんてやめてくれよ。ファミリアって呼んでくれ」

「ファーミーーーン!!」

「はっはっは。ムーミンみたいな?」


…………???

なんの会話をしているんでしょうか。というか会話になっているんでしょうか。

結局この二人の会話を最初から最後まで理解することが出来ず終い。

いえそもそも人間が理解しえる内容なのかも疑わしい気がします。

2時間がまるっと無駄になったようです。

次のお客様は特に居ないらしく、岸本さんは出入り口のほうに行きました。

しばらくその辺をぶらついていたと思ったら、浅黒くて頭が三つに分かれている犬を見つけ

猛ダッシュで走り出しました。目が怖いです。


「ワンコさまやぁぁあああ!」

「ぐぉぉお来るな!来る……っ早い!!足速いなお主!!」

「キャッチアンドリリーースですぜワンコさぁぁあん!!」

「意味が分からん!!」


高校生新記録並の足の速さを無駄に使いながらその場を駆け回る岸本さん。

だんだん目眩がしてきました。本当にこの人を参考にしても良いものなのでしょうか。


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