表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/26

11 それが迂闊なのだと



「私は早めにお願いって言ったはずだけど?あなたの早く、は4時間後なわけ?

 これだけ待たせちゃったらもう断るに断れないじゃない。どうするの?

 相手は魔界のお貴族様なのよ?私程度の魔族じゃ助けに行くどころか返り討ちにされる、

 って言うより相手の領地にさえ入れて貰えないし、いつも外出の時に貸してるお守りなんて

 してったら逆鱗に触れて即処刑されるわよ。どうやって身を守るつもり?」


ムカデさんの背に乗りながら移動している途中、ラミア店長の説教を頭の中で反芻する。

先日店長から電話があり、後でかけ直すと約束したのに

サソリさんとのプロレスごっこに白熱するあまり折り返し連絡するのをすっかり忘れていた。

そのため先方の予約を断れなくなってしまったらしい。

しかもお客様のお宅へ娼婦のほうが向かう、いわゆる出張サービスをご希望されたらしく

余計にラミア店長は渋っていた。


約一時間ほどの説教の後はひたすらテーブルマナー、礼儀作法を教え込まれた。

さらにはエリートな悪魔は、自分の力の強さを誇示するために魔族が苦手とする銀でできた物を

わざと傍に置く傾向があるので、いざとなったらそれで撃退しろとまで仰せつかった。

途中で幾度となく「お、おかっちゃん!」と抱きつきそうになるのを堪えるのが大変だった。


「……着いたぞ」


ムカデさんの合図に顔を上げると、大きな門がまず目に入る。門番は居ない。

中世ヨーロッパを思わせるそのお城は、芸術的なはずなのにどこか不気味で、

今にもラスボスとかが出て来そうだ。

ちなみに私の装備品は皮の服とひのきの棒レベル。新手の自殺か。

ムカデさんから降りてから自分の服にほこりやゴミが付いていないかチェックする。

これもラミア店長から注意しろと言われたことだった。


「ここで待っててやる」

「いやいや、何時間居るか分かりませんし」

「何かあったとき、叫び声が聞こえる場所に俺が居れば都合が良いだろうが」

「何かあったときの叫び声って……それもう断末魔と違います?」

「それくらい警戒しろってことだ」


ぬぅん。おとっつぁんめ。

この心配性2号さんをどう言いくるめたものかと悩んでいたら、門がゆっくり開きだした。

ギギギ、と鉄がすれるような音がする。

それと同時に中から灰色の手が歩いて出てきた。

いや歩いて、というのは御幣があるかもしれない。なにせ指を使って移動しているのだから。

手首から先をちょん切ったような形状のそのお方は、私の前まで来ると人差し指と中指で

おじぎのような仕草をした。それに釣られて私も頭を下げる。

次にちょいちょい、と人差し指だけでこっちへ来いの合図をする。

どうやら案内してくれるらしい。


「ムカデさん、帰るときになったらちゃんと連絡しますんで」


先帰ってて下さいよと念を押してから先に進み始めたハンドさんに付いて行く。

私が入った途端、また門が閉じる。

お城の中は薄暗く、広い廊下の壁に一定の間隔でロウソクが灯っていた。

中央には赤紫のジュータンがひかれている。

とんとん、と足を軽く叩かれたので、ハンドさんの身長(?)に合わすようにその場に

しゃがみ込む。すると今度は手を引っ張られたので、ハンドさんのなすがままに差し出した。

その差し出した手のひらに、ハンドさんが指で何か書き始める。


「ん?く・ら・り……いや、い?…か・ら……」


”くらいからきをつけろ”。


「あ、これはこれは。ご丁寧にどうも~」


お礼を言うと、ハンドさんは満足したようにさっさか歩き出した。

後を追うと、長い廊下の節々に絵が飾られているのに気付く。


「高そうな絵ですね~」


特に返事などは期待せずに呟いたのだが、ハンドさんは律儀にも壁にあったロウソクを

一本取り外して、私が見ていた絵を照らしてくれた。

その明かりではっきりと見えたそれは、百舌鳥の早贄人間バージョンみたいな絵だった。

他にも転んでしまった私が怪我をしないように下敷きになってくれたり、

靴に付いていたゴミを払ってくれたりと、恐るべきジェントルマンぶりを披露してくれた。

しばらくして、大きなダークグリーンの仰々しい扉の前でハンドさんが立ち止まる。

先程のように靴を指で軽く叩かれたので、しゃがみ込み手の平を差し出す。


”このへや”

「あぁ、ここなんですか」

”おじょうさまにそそうのないように”

「はいはい。精一杯気を付けます。案内して下さってありがとうございました」

”それがしごと”

「ええ。丁寧で良い仕事してましたよ」

”ほめてもなにもでない”

「ぬぅん。つれないですなぁ」


どうやらハンドさんは仕事に誠実な性格らしい。

その実直さに表情が緩む。


「うちの使用人にまで媚を売るなんて、随分と見境がないのね」


声のした方を向くと、いつのまにか開いていた扉の傍に女の子が立っていた。

大体10~12歳くらいの歳だろうか。綺麗な金の髪をポニーテールにしている。

薄灰色の瞳と、少し丸みを帯びた頬がとても可愛らしい。

ハンドさんは丁寧なおじぎの仕草を指でしたあと、そのままどこかへ行ってしまった。

その態度を見る限り、この人がこのお城の主なのだろう。

薄ピンクのフリルの付いたドレスに、耳や胸元に光っている装飾品がとても高級そうだった。


「えーと……お初にお目にかかります。岸本と申します。この度は私のようなぐぶらっ?!」


挨拶の途中で変な叫び声が入ってしまったのは、初対面であるはずのその少女から

腹部に体重の乗った膝蹴りを喰らったからだ。

咳と吐き気が同時に押し寄せたせいか、喉から変な音がする。


「ちょっと、床は汚さないでよ」


四つん這いのまま咳き込んでいる私を横目に彼女は顔をしかめた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ