私のどこに惚れたのよ
壱
美しいものを見ると、目が痛くなる
美しいものは、僕の目には毒だ
しかしそれは、美しすぎて目が離せない
強すぎる毒は、むしろ薬なのだろうか
そういう意味では、彼女は猛毒だ
猛毒であり、特効薬
僕にはその薬が必要だった
僕は彼女のことが好きになった
「すきです、ぼくとつきあってください」
ある日の放課後、学校の下駄箱の前で告白した
その場に僕と彼女の二人しかいなかったというわけではなく、他の小学生も同じくそこにいた
同学年の子も、先輩も
けれども僕は躊躇しなかった
滑らかな長髪
上品な所作
可憐な笑顔
完璧な美しさ
小学生になってわずか数日だったその日、
僕は彼女に一目ぼれした
小学一年生とは思えない、他の学生とは一線を画す美しさを彼女は持っていた
周りの生徒がざわつく
それもそうだ、こんな公衆の面前で告白をしたのだから
それに、彼女の美しさに目を奪われていたのは、何も僕だけではなかった
だんだんと恥ずかしくなってくる
注目されるのが今更ながらきつかった
僕は多数の視線に耐えかねて、彼女に背中を向けて帰ろうとした
「わたしのどこにほれたのよ」
すると彼女がそう言った
年端も行かない子供の声とは思えないほど、上品だった
その柔らかい声を聴くだけで、自然と癒された
「・・・え、えーと・・・・・・」
口ごもってしまった
何といえばよかったのだろう
そうして黙っていると、
「わたしのすきなことろをひとつもいえないようじゃ、あなたとつきあうことはできないわ」
と彼女は言った。
至極当たり前の意見だった
自分のことに惚れたのか、即座に言えない男と付き合う道理なんてない
僕は盛大に落ち込んだ
「ごめん」
そういって、弱弱しく踵を返す
もうここにはいられないと思った
「もしわたしとつきあいたいのなら・・・・・」
しかし、彼女の美しい、ずるい声にまんまと反応し、またも僕は素早く振り返った
「わたしのすきなところ、ひゃっこいってもらわないとだめね」
百個・・・
そういったかと思うと、彼女はすっかり蚊帳の外となっていた友人を引き連れ、玄関を後にした
・・・・・・・・・
まるで、ついさっき起こったことに対して何も感じていないかのような凛とした顔で、彼女は去った
反対に、強引につ入れていかれた彼女の友人を含む周りの生徒ほとんどが笑っていた
その対象は間違いなく僕だ
・・・・・よし
その日から、薬を手に入れる挑戦が始まった
僕には周りの嘲笑が聞こえなかった
一
私もついに中学生になりました。
小さいころから今まで、特段不幸なことは起こりませんでしたし、今も優しい友人に囲まれてとても充実した日々を過ごせています。
それでも少し気がかりなことといえば、やはり『彼』の存在でしょうか。
小学生の頃から私に好意を寄せてくれているようですが・・・正直彼のことは良くわかりません。
何度も何度も愛の告白を繰り返してくる彼。
この前だって・・・
「好きです、ボクと付き合ってください」
「私のどこに惚れたのよ」
「あなたの声が好き 少し聞くだけで、心が癒されるんだ」
そんなことを言ってきたのです。
まさか、私が六年前に言ったことを真に受けているのでしょうか。
『わたしのすきなところ、ひゃっこいってもらわないとだめね』
他人の好きなところを百個も言うなんて、私には無理です。
けれど・・・・・・・・ずっと数えてきて、さっきのでちょうど四十個目。
これは本当にすごいと思います。
でもやっぱり、彼のことは特段好きではないというのが正直なところです。
それは彼が私好みの男性ではないからというわけではなくて、
私には恋愛が分からないから・・・
弐
高校一年生になって数日がたった
彼女と同じ高校に入学をすることができて本当によかった
僕はそこまで頭のいい方ではなかったから、正直少し怖かった
幸せだ
放課後になり、同じクラスの彼女が教室を出ていこうとする
「待って」
僕は彼女を呼び止める
何度も何度も声をかけ続けているけれど、彼女は嫌な顔一つしない
「あら、何か用かしら」
彼女はやはり美しい声で応じる
彼女を前にすると、胸が苦しくなる
普段でさえ苦しいのに、こりゃ参っちゃうな
「好きです、僕と付き合ってください」
何度も口にしたセリフだ
ただ、その一つ一つにきちんと思いを込めている
一番初めの告白と、個の告白は等しく重い
「私のどこに惚れたのよ」
僕の言葉を聞いて、やはり彼女はそう答える
彼女はいつも真剣だ
その一見冷たく思える瞳の中には、確かな温かさがある
「君の真剣な瞳が好き その瞳を見るたび、僕は元気になるんだ」
二
この春、大学一年生になりました。
これまで同様、私の人生に困難という文字を見つけること自体が困難です。相も変わらず何不自由なく、平和な大学生活を楽しむことができています。
そんな何の変哲もない生活の中に唯一存在する、変わっていることが『彼』の存在です。
私は決して、自分に自信がないわけではありません。しかし、彼からの必至なアプローチには少々困惑してしまいます。
私って、そんなに良い女なのでしょうか。
最近は彼の甘い言葉を聞くたびに、物凄くドキドキしてしまいます。
あー恥ずかしい恥ずかしい。でも、やっぱり彼のことを一日中考えてしまいます。
三日前に彼から、八十回目の告白をされました。危うくOKを出してしまいそうになりましたが、自分の言ったことはきちんと守らないとですよね。今まで必死に頑張ってきてくれた彼に悪いですし・・・
そういえば、前と比べて彼と会う回数が減った気がします。
同じ大学の同じ学部だというのに・・・しかも、会うたびに痩せて顔色が悪くなっている気も・・・
気のせいでしょうが正直心配です。
また明日も彼に会うことができるでしょうか。
恥ずかしい。
けど今、とても幸せです。
参
体は重いし、頭は割れそうなほど痛い
もう僕は死んでしまうのだろうか
昔から体が弱かったけど、最近は特にひどかった
生きているのがやっとって感じだ
はあ・・・はあ・・・
病院のベッドで苦しむ僕を、看護師さんがやさしく見つめてくれていた どうやら有効な治療法が今のところないらしく、残り少ない命を全うするしかない
マジかあ
もうちょっとだけ生きていたかったんだけどな
思わず苦笑する
ああ、彼女に会いたい
そうだ、看護師さんに呼んでもらおう
翌日、彼女が来た
久しぶりに会った感じがする
あれ?
泣いてる
初めて見た
本当、泣き顔も美しいなあ
「なんで、」
ん?
「なんで、教えてくれなかったの」
彼女が泣きながらそう言う
しょうがないじゃないか
こうなることは何となくわかっていたけど、こんなこと言えるわけがないんだから
「でも、、もっと早く知ってたら、何か・・・何かできたかもしれないのにっ!」
だから無理だったんだって
僕が一番、僕のことを知っているんだから
あー
号泣だ
どうしよう
涙を流す君は、いつもと違って儚い美しさを持っている
けれど僕が好きなのは笑顔の君なんだ
「・・・・・・・・・・・・・」
まあ、仕方ないよ
今できる精一杯の笑顔で言う
天井を見上げてみた、白い天井
もう僕は無理だろう
何となく、今日僕は死んでしまう気がする
何となく
けれども謎に確信をもっている
こんなことを考えている間にも、頭がぼーっとしてくる
ダメだ、そんな暇はない
それよりさ、最後に言いたいことがあるんだ
結構苦しいから、これだけは今のうちに言っときたい
天井から彼女へ視線を戻す
「・・・・・」
彼女は泣いたまま、しかしそれでいてしっかりと僕の方を向いて、傾聴の準備をした
震えている
「好きです、僕と付き合ってください」
全身の力を振り絞ってそう言った
必殺技かと思うほど力を使ってけど、ただの愛の告白だった
最初に告白をしたときは、相当勇気を振り絞った
しかし流石にこの瞬間は、スっと言葉が出た
僕の渾身のセリフを聞いた彼女はふっと微笑んだ
どうやらお決まりのセリフを口にするようだ
「私のどこに惚れたのよ」
ははっ
そんなの決まってる
「全部さ。君のすべてが好きだったんだ」
参
彼は亡くなりました。
ちょうど百回目の告白を終えて。
全く、身勝手ですよね。私を落としておいて、自分だけ上に行っちゃうんですから。
けれどもまあ、そこも彼らしいと言えば彼らしい気もします。
どこか空みたいなところがありましたからね。
私は彼のそこが好きになったんでしょうね。
「ん、ん~・・・さて、今日はもう寝ようかしら」
会社から持ち帰った仕事は終わらせたし、明日の準備も整っている。さっき歯を磨いたし、柔軟も終えた。
ベッドに移動する前に、彼の写真に手を合わせておきましょう。
彼のご両親からいただいた、彼の写真。
相変わらずいい笑顔。
手を合わせたのち、ベッドに横になる。
私は寝つきがいいですから、すぐに眠りにつくことができます。
『好きです』
ああ、彼の声が聞こ、え、る・・・・・・・・・・・・・・・
四
「・・・・・ん・・・・・ちゃん」
誰かが私の名前を読んでいる。いったい誰かしら。
「あっ! やっとおきたぁ、はやくかえろっ!」
え?
鞄を持たされ、強引に手を引っ張られ連れていかれる。
ここはどこかしら?・・・まだ頭が回っていません
どうやら私の手を引いている女の子は、私を下駄箱まで連れてきたようです。
下駄箱?
「はなちゃん! はやくかーえろっ」
「う、うん」
にわかには信じられませんが、どうやら今の私は小学生のようです。
しかも一年生だ・・・・
靴箱の上に置かれた札には、『1ー1』と習字のような字で書かれている
夢、、でしょうね
こんなにも鮮明な夢は初めてですが。
まるで現実のよう・・・・・
あ、
ということは、もしかして・・・・・・・
「すきです、ぼくとつきあってください」
予感が当たった。
ずっと聞きたかった声。
帰ってこないと分かっていたのに待ち続けて、やっぱり帰ってこなかった。
本当は、途中から好きになっていた。
それなのに、自分が適当にした約束に縛られてそうだと言わなかった。
後悔で死にそうだった。
あんなに好きだったのに。
もう、会えないなんて。
でも・・・・・
彼は確かに目の前にいた。
真剣なまなざしで、私の前に立っていた。
こんなにちっちゃかったんだね。
私は懐かしさや愛おしさ、うれしさや感動が混じりあい、泣きそうになる。
そんな私を見た彼は少し困ったような顔をしたが、言わなければいけない。
私は、言わなければいけない。
ここから取り戻すために。
また、始めるために。
「わたしのどこにほれたのよ」
泣きそうになりながらも、自然と笑みがこぼれる。
なぜだろう。
そうして彼の顔を見てみた。
彼はどんな表情をしているのだろうと。
彼も同じく笑っていた。
涙が止まらなかった
終了




