マーク4
次の日、作戦が決行された。いつもなら、明るくなると同時に開戦するのだが、今日は出来る限り前へと進むために暗いうちから行動している。今回は敵を倒す事よりも、できる限り奥へ大砲を運び、敵陣の施設を破壊することを目的にしているからだ。
そのため、ほとんどのパーティが夜明け1時間ほど前に敵陣へと向かって攻め込んでいる。俺たちは、それで空いた場所へと突っ込むのだ。
これ、俺が思っていたよりもかなり安全な気がするぞ。最初に思っていたのは、いつも通りの時間に俺たちがシールドを張りながら無理やり運ぶイメージだったんだけど、味方が道を開いた後に大砲を運ぶのならば、一番被害を受けるのは道を開く役目を負ったパーティだろう。リーダーはこれを見越していたのか?
「ちっ、俺たちが最初に突っ込むんじゃないのかよ。敵の居ない場所をシールドを張って走るだけなんてつまんねぇな」
違った。普通にリーダーは最初に突っ込む気満々だった。俺と同じように作戦を勘違いしていたようだ。しかし、リーダーはなんだかんだ言って作戦には忠実に従うタイプだ。まあ、じゃないとリーダーという階級は与えられないか。
「っと、たまにはこっちにも弾が飛んできやがるな。お前ら、油断するなよ?」
「はっ、はい!」
俺たちのシールドなんて、真正面から炎弾を受ければ貫通される程度の防御力しかない。対して、リーダーは敵の流れ弾を簡単にシールドで弾いている。というかあの人、目で追えない速度で飛んでくる弾が見えてないか? 本当に化け物スペックだな・・・。
俺たちは大砲を無事に敵陣まで運ぶことに成功した。道中、他のパーティの何人かが焼け死んだが、うちのパーティは無事だ。新人が死にかけたが、リサ先輩のヒールで生き残っている。まあ、結局放心状態で使い物にならないから道中に置いてくるしかなかったが、あとは自力で生き延びてもらうしかないな。そこまで面倒を見きれるほど人員に余裕はない。人族は、今回のこの作戦を成功させるのに全力なのだ。
「敵の施設発見。大砲の準備をします」
大砲に弾を込める役の工兵達が、作戦決行地点に到着したので魔力を大砲に込め始める。俺たちは、敵の弾が工兵や大砲に当たらないように防ぐのが役割だ。敵も大きな大砲に気が付いたのか、まあまあこちらに向けて攻撃してきている。何人か燃え上がるが、今日は兵士の命よりも大砲の方が大事なのだ。
「準備完了! 発射します! ストーンブラストキャノン!」
普通のストーンブラストは、できた塊を人の腕力で飛ばすため、飛距離はその人の投擲力次第だが、普通はストーンバレットよりも飛ばない。だが、大砲はそれを魔法陣を使って飛ばすため飛距離が段違いだ。敵の隕石みたいに命中率は良くないと聞いているが、その分の威力は保証されているという話だ。
初撃の一発目は建物に当たらなかったが、ストーンブラスト同様に破裂し大きなクレーターを作り出す。付近に居た敵兵は木っ端みじんだ。だが、この音を聞きつけて建物からもワラワラと敵兵が出てきたな。
「次弾、装填します!」
工兵達が次の弾を作り出す。敵の隕石と違い、何発も撃てるのが大砲の強みだ。今度はさっきの着弾点から計算し、少し大砲の向きを調整してから発射した。
「おおっ、敵の休憩施設っぽい建物の壁が吹き飛んだな」
建物に直撃はしなかったが、近くに着弾し、建物の壁が崩壊するのが見えた。敵の兵士が集まりだし、さすがに攻撃が苛烈になってきたので大砲を守りつつ撤退を開始する。
だが、敵もタダで返すわけにはいかないと、捨て身で突っ込んでくる。
「はっはぁ! やっぱり前線はこうじゃねぇとな!」
リーダーは嬉々として敵へ突っ込んでいく。本当ならリーダーはこの大砲を守りつつ退却する方なのに。だが、敵の攻撃を防ぐ役目も必要だと思うので、俺は何も言えない。そして、俺の近くにも敵の炎弾が通り過ぎた。
「がふぅっ!!」
「リサ先輩!!」
俺の近くに居たリサ先輩が、運悪く流れ弾に当たる。俺はすぐに自分の服を脱ぎ、リサ先輩の体についた火を消す。本来なら、何かあった時の回復要員のため、多少後方に控えているのだが、今回は大砲と一緒に撤退しているため敵の攻撃にさらされているのだ。
「リサ先輩、自分に早くヒールをかけて!」
すぐに消火したからか、リサ先輩は何とか息があった。けれど、上半身が焼けただれ、どう見ても致命傷だ。
「・・・だめよ・・・勝手にヒールを・・・使うことは・・・許可されて・・・いない・・・のよ・・・」
ヒールはリーダーの許可が無いと使用してはならないことになっている。過去に、勝手にヒールを使って必要な時にヒールが使えなくなったことから出来たルールだ。これを破ると、命令違反となり、最悪罪人として処罰される。罪人として処罰された場合、退職金や遺族への補償金が出ない。残された家族のために働いているリサ先輩は、この命令違反を絶対に破れない。
「けど、このままじゃ死んじまいます! 今すぐ、リーダーに許可をもらってきます」
「―――」
リサ先輩は、口を開けるが話す元気も無いようだ。
「くそっ、リーダーは一体どこに行ったんだ!」
乱戦となっているため、どこにリーダーが居るのか分からない。一緒に撤退していれば、こんなことにならなかったのにと思いつつ、前線へと走る。この時点で、俺が命令違反の可能性があるが、そんなことよりも大好きなリサ先輩の命の方が大事だ。
「リーダー! リーダー! どこですか、リーダー!」
リーダーを探していると、敵の休憩施設の方からフラフラと歩いてくる女性が見えた。服は半分ちぎれて血だらけだが、怪我は見当たらない。その服も兵服ではない。
「まさか、一般人? けど、魔族だろうな」
兵士の休憩施設には、兵士の慰安を目的とした一般人の女性も居ると思われる。魔族の休憩施設から出てきたのなら、恐らく魔族だろう。だったら、敵だ。
「あっ」
見ていると、誰かが放っただろうストーンバレットが女性に直撃した。腹部がはじけ飛んだので即死だろう。そんなことより、今はリーダーを探さないと。
そう思って再びリーダーを探そうとしたが、視界の端でありえない事が起きているのが見えた。腹部を失ったはずの女性が、再び立ち上がったのだ。見たところ体に損傷はないが、新しく穴が開いて破れた服が攻撃あったことを証明している。
「まさか、ヒーラーなのか? それも、とんでもなく優秀な」
普通のヒーラーは欠損は治せないと聞いている。それを治せる彼女は優秀なヒーラーなのだろう。彼女が例え魔族であってもいい。彼女にリサ先輩を治してもらえれば、助かるかもしれない。
俺は危険を承知ですぐに彼女へと近づく。ヒーラーであっても攻撃魔法は使えるのだから、撃たれる危険性がある。普段はヒールを優先するために使わないだけだから。しかし、俺は攻撃されなかった。それどころか、俺が近づいても彼女は俺の事が見えていないかのようにフラフラと歩いている。
「一緒に来てくれ、助けてほしい人が居るんだ!」
言葉が通じないかもしれないと思いつつ、彼女の手を握って引っ張る。彼女は抵抗することなく、俺にひっぱられるまま歩き出した。




