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最終稿③ トゥルーエンドの条件・『檻の中の人形王』

 『檻の中の人形王』


 生まれてからずっと自分の心を抑えつけて生きてきた王子が、王になった後。

 彼は自分にそうしてきたように、配下の者達や民に厳しく冷酷な王となる。

 人形として育てられた王は、人間になりきれないまま、民に呪われながら死ぬ。

 そして目覚めたら子供時代に戻っていたという、タイムリープ物の物語。



 クローヴィスと婚約してまもない時期。

 その本を書き上げ、自分をここまで育ててくれた両親に土下座したくなった。


 先立つ不幸をお許しください。


 望んで先立つ訳ではないが、これは間違いなく王宮とクライノート家に波乱を巻き起こすだろう。


 首の一つや二つ、飛ぶかもしれない。

 私の首一つじゃ足りない。

 つまり下手を打てば、クライノート公爵家が潰される。そういう意味でも、両親に心の中で深く深く謝った。

 

 そして、その予感は的中した。


 私が、皇太子妃として適正な人間かを国の重鎮達に見定められる日のこと。


 王宮内の議場に集められた、皇室関連の重要ごとを決める枢密院の代表達。

 その議長を務めるノーヴァ帝国宰相。


 クローヴィスの母方の祖父でもあるその人物は、重鎮たちが揃った枢密院で「何だ、これは」と私が差し出した本を見た。

 汚いものを見る目だった。


 これは本です。

 なんて言おうものなら、視線だけで射殺されてしまいそうだ。


「お前がここにこれを持ってきた目的は?」

 ずしんと、心臓に重い岩を乗せられた心地だった。言葉が出てこない。

 生半可な気持ちで答えてはいけない。


「クローヴィス殿下を……」

 どう言う?

 重鎮達の中にあって、一際大きく重い存在感を放つ宰相。クローヴィスと同じ、紫色の瞳がこちらを睨んでいる。


 小手先の作り話は、見抜かれる。


「クローヴィス殿下の治世を、盤石なものとするためです」


 自分の心を殺し続けるクローヴィス。

 魔法薬に頼らなければ、自分の願いを表に出すこともできない彼。

 このままでは、クローヴィスは壊れる。


「クローヴィス殿下の置かれた状況に不満があるのか?」

 宰相が問う。

「不満……ではありません。もっと明確で重大な懸念、いえ、恐怖です」


「恐怖?」

 鼻で笑うような雰囲気が重鎮達に広がる。


「クローヴィス殿下ほど皇帝に相応しい者はいない。それは皆が認めている」

 別の男性が重々しく告げた。


「そのご意見に反論はございません。私は、殿下にも限界はあると申し上げたいのです」

「はっ、限界……ねぇ」

 まともに取り合う価値も無い、という雰囲気が、その場に流れた。


「それで、お前の要求は」

 宰相の声に、議場の重鎮達が静まり返る。

「クローヴィス殿下に、公務からひととき離れるお許しを」

「休ませよ、と?」

 宰相から厳しい声をぶつけられる。


 ここが勝負どころだ。

 お腹に力を入れた。

「はい。民と同じ目線に立ち、自由に学ぶ時間を、一年間いただきたく存じます!」


「一年間!」

「小娘が殿下に気に入られたからと調子に乗って!」

「自由に学ぶなど、遊んで暮らすも同然だろう」

 そこかしこから、ため息が聞こえてくる。


「大体、殿下はこの前学校を卒業して政治の勉強を始めたばかりだ。休みたいなど甘えも甚だしい」


(今、なんて言った?)


 自分が貶されるのは我慢できるが、クローヴィスのことを何か言われるのは我慢ができなかった。


 彼は魔法学校在学中も公務で忙しかったし、その間の学校での勉強も、今の政治の勉強だって手を抜いていない。


 彼は生まれてからずっと鎖に繋がれている。この先も。何かあったら領地に逃げ込める貴族とは違う。彼は常にがんじがらめで、責任を取ることを要求されている。


 それも想像できないで、何が。


「殿下の生活や気持ちを知ろうともせず、想像すらせず、殿下が見せてくれることだけを馬鹿みたいに信じるお花畑の人間が、何故、この場に座っていられるのですか!」


 言ってしまったぁぁぁ。


「その不遜な女を叩き斬れ!!」


 カチャリと、剣の鞘が近くで鳴る音がした。


 ごめんなさい、お父様お母様。


(クローヴィス様)

 死を覚悟して、ぎゅっと目を瞑った。

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