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第二十一稿 ご都合主義です

 卒業式の日。

 夏の日差しが燦々と、ノーヴァ帝国魔法学校に降り注いでいる。

 晴れやかな日にぴったりの良い天気だ。


 クローヴィスと最後に会話をしてから、魂が抜けてしまったように、やる気が出ない。

 ぼんやりと、光差す中庭の椅子でキッシュを食べていると。


「ナディア・クライノート!」

 もう振り返るのやめよう。

「聞こえているのだろう、何故こちらを見ない!」


 ほんと面倒くさいな。

 腐っても彼も皇族だ。非礼過ぎるのも良くない。

 渋々、声がした方に目を向ける。

 いつものヴィラントだ。


「あら、失礼いたしました。元婚約者のヴィラント殿下。今日もお疲れ様でございます。それではご機嫌よう」

「まだ用件を伝えていないぞ!」


 クローヴィスを思い出させる顔が、今は憎たらしい。

「存じております」

 耳に既にタコが何十匹も。


「婚約の話でしたら」

「そうではない」

 何ですって?


 ヴィラントは真剣な表情で口を開いた。

「今日は別れの挨拶に来た」

「わ、別れ?」

 貴方も卒業するんでしたっけ?

 と問いたくなるのをこらえる。


 ヴィラントは私と同じ学年のはずだ。

「私は決意した。いや、天啓のように悟ったのだ! 私の運命は、辺境の地にあると!!」

(……………は?)


「本来ならば何かしらの言われなき罪で追放されねばならないが、都合良く言いがかりをつけてくれる者がいなくてな。自主追放で、辺境の地に赴くことにした!」

 自主休校みたいなノリで話さないでください。


「待ってください、何でいきなりそんな事を決めたんですか!」

「さっきも言ったが、天啓だ。マチルダのような私の生涯の伴侶となるべき女性と愛らしいもふもふが、いや、私の輝かしい人生が! 辺境の地で待っているのだ!」


 訳がわからない。

 けれど、引っかかる点があちこちにある。

『辺境』『もふもふ』『追放』そして『女性』。


 それは、先日書き上げた本のキーワードだ。

 流行りだから似たものは沢山あるとは思うけど……タイミングがあまりに不自然だ。


「ヴィラント様。もしかして追放されて辺境で活躍する主人公の本でも読みました?」

「ああそうだ! ナディアが書いたと言う新作を読んで、深く感銘を受けたところだ!」


 感銘って。

 あの本はまだ即売会で売っていない。

 クローヴィスがヴィラントに読ませたのだろうが……先日の婚約破棄と言い今回と言い、行動が極端過ぎる。


「あの、落ち着いて考えましょう。作者が言うのも何ですけど、あの本はファンタジー、作り話です」


「それが何だ! 物語は人生を変えるのだ!」

 そうだとしても貴方の人生に責任持てません!


 ヴィラントは自身の胸に手を当てて、真剣に告げた。

「ナディア。私はもう王都へは戻らない。お前にも会えなくなるが、寂しがるなよ」

 それは願ったり叶ったりなんですが。


 こちらの混乱などお構いなしに、ヴィラントは高らかに告げた。

「さらばだナディア! お前の物語と、再びどこかで出会えるのを待っている!」


 コツコツと靴音高く去っていくヴィラントの後ろ姿を、唖然として見送った。


(おかしい)

 この状況は、私にとって都合が良すぎる。ご都合主義だ。


——「もう、解放してあげた方が良いと思ったんだ」


 気付くと、直談判せずにはいられなかった。

 彼も今日、この学校を去るのだ。

 何かに追い立てられるように、中庭を走り出した。

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