第十八稿 ご所望の新作です
クローヴィスは私の話を聞いて、しばらく考え込むように自分の指の背に顎を乗せていた。
そして、ぼそりと呟く。
「加減しすぎたかな」
加減?
クローヴィスは、ゆるりと微笑んだ。
「ううん、こっちの話。それより、私からナディアにお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「うん。本を一冊書いてほしい」
「本……ですか」
本ならいつでも書いているが、それとは別に、ということだろうか。
「主役とストーリーを指定させてほしい。主人公は男性。そうだな、歳は10代後半から20歳くらいで、身分は王子か貴族」
慌てて、ポケットからメモ帳を取り出してクローヴィスの言葉をメモする。
「今流行の辺境に追放される話で、主人公は王都には戻れなくなる……ああでも、くれぐれも酷い扱いはしないであげてほしいな。少し思い込みが激しいけど、根は真面目で優しいキャラなんだ。彼はそこで、それなりに楽しく過ごす……もふもふと一緒にスローライフにしよう」
……やけに細かい指示だ。
「男性向けですね」
「そうだよ。君は得意だろう?」
その言葉に、背筋がヒヤリとする。
クローヴィスが自分の正体を知っていた辺りから感じていた不安を、確かめてみることにした。
「あの……クローヴィス様。まさかとは思いますが、ハメレイの内容をご存知で……?」
「知ってるよ」
クローヴィスは何でもないことのように答えた。
だが、こちらは非常に居心地が悪い。
「あんな……品の無い作品を書いてしまって……」
誰か私を墓穴に蹴り落として埋めて。
今すぐ永遠の眠りにつきたい。
クローヴィスは意外そうな顔をした。
「品か。私は叫びのようなものを感じたけれどね。あの本からは」
叫び?
クローヴィスは紫色の瞳で、ベンチから遠くに見える湖の方を眺めた。
「星の花びらのジェイミーとハメレイのマチルダは、君と言う人間のコインの裏表だ。ジェイミーは君の強さ。マチルダは弱さを表してる」
そんな自己分析、したことがなかった。
私にとってハメレイは消したい過去で、恥ずかしい過去で……
「両面が揃って君だとしたら、私はハメレイもマチルダも否定してはいけない」
クローヴィスはこちらを再び見ると、少し上目遣いで言った。
「私は君の一番のファンなんだからね?」
全ての自己否定を封じられてしまう威力だった。
それからしばらく、何を話したか記憶が飛んでいる。
「私が卒業する前に必ず書き上げて」
と、クローヴィスが指定する物語の制作を念入りに頼まれたことだけは覚えている。
そう、彼は……クローヴィスは、この夏、魔法学校を卒業する。
彼が学校からいなくなる覚悟を、心の準備を、私は進めている。
かくて。
私は、『破滅エンドを回避させた令嬢達が僕を毎晩悩ませてくる』以来の男性主人公で、男性向けの追放物、
『王都を追放された俺、気付いたら辺境の地でモフモフと美女に愛される最強領主になっていた!』
を書きあげた。
美女要素は指定されてなかっただろうって?
男心が分かってないなァ。




