第十六稿 作者と読者の根比べ
初夏の湿った風が、ノーヴァ帝国魔法学校の中庭の木々の葉を揺らす。
覚悟をするために、その風を吸い込んだ。
蒸し暑さが増すこの季節、魔法学校の生徒達は少しずつ、来たるべき日に向けて心の準備を始める。
今日は時期はずれの暑さだ。まだ本格的な夏ではないのに。まだ……
「ナディア・クライノート!」
「……はぁ」
ため息をついた。
もう何度目だ。
次はどんな展開がお望みだ。
呪文学の教室に向かっている途中、ノーヴァ帝国第三皇子のヴィラントが、太陽の光が差し込む回廊に現れる。
求婚される度に自キャラのマチルダ達を盾にして何度も撃退しているが、ヴィラントはなかなか挫けない。
「今日こそ私と、再び婚約を!」
「お願いですから諦めてください! 私は、当分の間は婚約なんて考えられません!」
今も頭の中は新作の物語のことでいっぱいだ。
創作の邪魔をしないでほしい。
「では、考えられるようになるまで待とう!」
「ですから! 貴方とは! もう……」
くらり、と視界が揺れた。
暑い中叫びすぎた。
「もう、考えられないんです。授業も始まりますから、お引き取りください」
何とか最後まで言い切り、眩暈を堪える。
ヴィラントは私の異変には気付いてない様子で、
「授業? 仕方ない……では、また後ほど」
と、ローブを閃かせて去っていった。
相変わらずの鈍さにホッとする。
いや、自分が求められていないことには早く気付いてほしいのだけど。
周りの生徒達は、既にこの展開に慣れてしまって足も止めない。
この日々は、いつまで続くのだろう。
終わりが見えず、また深いため息が出た。




