第十稿 マッチ売りのような彼女【side:クローヴィス】
(憐れだと思った。
それが始まりだった)
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『古代の魔法薬を発見した』
その報告を受けたのは、公務の一つである聖堂跡の発掘監督をしていた時だった。
古代の皇帝の廟でもある聖堂跡。
それは、副葬品として棺の中に納められていたと言う。
いつの時代のものか、どのような効果があるのか、その詳細は現在分析中。
魔法薬学の専門家らが、発見された薬に含まれる成分やその組み合わせを検討の上、分析結果をクローヴィスに伝えることになっている。
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公務の合間にヴィラントの婚約者として紹介された彼女は、特に印象に残らない、どこにでもいる令嬢だった。
手早く当たり障りのない会話をして、自分の義妹になる人物の顔と名前を事務的に覚えた。
彼女との出会いすら、自分にとっては、こなさなければならない仕事でしかなかった。
魔法学校を卒業する前に、仮面文芸即売会に一度行ってみるといい。そう友人に言われて、暇を見つけて行ってみた。
そこで、涙を流す彼女に出会うとも知らず。
将来の義妹が即売会に売る側として参加していることに驚いたが、一方で冷静に彼女の状況を分析していた。
燭台が浮かぶ、魔法学校の薄暗い回廊。
彼女のテーブルが見えていないかのような足取りで、特定のテーブルに集まっていく生徒達。
彼女の作品をちらりと見る生徒達も、足を止めずに通り過ぎる。
涙を拭く彼女。
頑張って作った本が売れないのだろう。
(可哀想に)
皇太子として、民の一人を憐れむ気持ちで彼女の座るテーブルに近づいた。
彼女はハッとして、仮面の奥から潤む瞳で見つめてきた。
涙を見てしまった手前、どう話しかければいいか迷い、「面白そうだね」と声をかけると、彼女は束の間自分を見つめた。
(猜疑心)
他人の気持ちを読むことを求められる日々の中、彼女の視線の意味も即座に読んでしまった。
彼女は信じられないのだ。
「面白そう」という言葉が。
彼女に咄嗟にそんな顔をさせてしまうくらい、長くこの状況が続いてきたということ。
何度も「今日こそは」と本を並べては、誰の手に取られることもなく片付けたのかもしれない。
でも相手に「信じられない」という顔をされると、「信じさせたい」と思ってしまう性分の自分には、彼女のこの反応は猛毒だった。
何としてでも信じさせてやる。
そのための情報収集として、寮の自室に帰ってすぐ彼女の本を読んだ。
期待などしていなかった。大衆が興味を持たない作品には、きっと理由がある。
親しくなってから、さりげなく改善点を伝えれば、彼女も何か見えてくるものがあるかもしれない。
そんな傲慢な気持ちで読んだ彼女の本は、驚くほど言葉のパワーに溢れていた。
否応無く物語の世界に引き摺り込まれ、振り回される。
幼い頃に乗ったブランコを思い出した。
身体を大きく揺らされるのが癖になり、もっともっとと足で勢いをつける。
もっと、彼女の言葉を。
もっと、彼女の物語を。
本を閉じる頃には、すっかり彼女の言葉を求める自分になってしまっていた。
魅了されていた。
その事態に自分で動揺した。




