表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/30

第十稿 マッチ売りのような彼女【side:クローヴィス】

(憐れだと思った。

 それが始まりだった)



   ☆☆☆



『古代の魔法薬を発見した』

 その報告を受けたのは、公務の一つである聖堂跡の発掘監督をしていた時だった。

 古代の皇帝の廟でもある聖堂跡。

 それは、副葬品として棺の中に納められていたと言う。


 いつの時代のものか、どのような効果があるのか、その詳細は現在分析中。

 魔法薬学の専門家らが、発見された薬に含まれる成分やその組み合わせを検討の上、分析結果をクローヴィスに伝えることになっている。



   ☆☆☆


 

 公務の合間にヴィラントの婚約者として紹介された彼女は、特に印象に残らない、どこにでもいる令嬢だった。


 手早く当たり障りのない会話をして、自分の義妹になる人物の顔と名前を事務的に覚えた。


 彼女との出会いすら、自分にとっては、こなさなければならない仕事でしかなかった。


 魔法学校を卒業する前に、仮面文芸即売会に一度行ってみるといい。そう友人に言われて、暇を見つけて行ってみた。


 そこで、涙を流す彼女に出会うとも知らず。

 将来の義妹が即売会に売る側として参加していることに驚いたが、一方で冷静に彼女の状況を分析していた。


 燭台が浮かぶ、魔法学校の薄暗い回廊。

 彼女のテーブルが見えていないかのような足取りで、特定のテーブルに集まっていく生徒達。

 彼女の作品をちらりと見る生徒達も、足を止めずに通り過ぎる。


 涙を拭く彼女。

 頑張って作った本が売れないのだろう。

(可哀想に)

 皇太子として、民の一人を憐れむ気持ちで彼女の座るテーブルに近づいた。


 彼女はハッとして、仮面の奥から潤む瞳で見つめてきた。

 涙を見てしまった手前、どう話しかければいいか迷い、「面白そうだね」と声をかけると、彼女は束の間自分を見つめた。


(猜疑心)

 他人の気持ちを読むことを求められる日々の中、彼女の視線の意味も即座に読んでしまった。


 彼女は信じられないのだ。

「面白そう」という言葉が。

 彼女に咄嗟にそんな顔をさせてしまうくらい、長くこの状況が続いてきたということ。


 何度も「今日こそは」と本を並べては、誰の手に取られることもなく片付けたのかもしれない。


 でも相手に「信じられない」という顔をされると、「信じさせたい」と思ってしまう性分の自分には、彼女のこの反応は猛毒だった。


 何としてでも信じさせてやる。

 そのための情報収集として、寮の自室に帰ってすぐ彼女の本を読んだ。


 期待などしていなかった。大衆が興味を持たない作品には、きっと理由がある。

 親しくなってから、さりげなく改善点を伝えれば、彼女も何か見えてくるものがあるかもしれない。


 そんな傲慢な気持ちで読んだ彼女の本は、驚くほど言葉のパワーに溢れていた。


 否応無く物語の世界に引き摺り込まれ、振り回される。

 幼い頃に乗ったブランコを思い出した。

 身体を大きく揺らされるのが癖になり、もっともっとと足で勢いをつける。

 もっと、彼女の言葉を。

 もっと、彼女の物語を。


 本を閉じる頃には、すっかり彼女の言葉を求める自分になってしまっていた。


 魅了されていた。

 その事態に自分で動揺した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ