ん?小説の主人公が敵…あれ?私たち、負け確???
敵軍の部隊の中に、これでもかというほど兵を固めて一向に動かない集団がいた。
怪しく思って、スコープをすると、そこには、黒目黒髪のセミロング、私の高校時代の学生服を着た私を10倍くらい美化した少女と、金髪碧眼のいかにもな王子がいた。
あの人物設定…身に覚えしかない…
「あれ…、『THE NIGHT』のヒロインとヒーローじゃん…」
ってことは、ちょっと待って?『THE NIGHT』はヒロインが絶対チート。負ける描写は一切描いていない。
「この戦、私たちの負け確…?」
思わず口からこぼれた言葉に首を横に振る。
落ち着け。私はこの小説の著者。つまりこの世界のルール。私がこの戦に介入すれば、こちら側が勝つ!
まずはヒロインの能力分析。
「サーチ。」
…さすが私の理想を全て詰め込んだキャラクター。
ほぼ全ての数値がバグっている。常人の戦闘力が50であるのに対して、ヒロインは999。魔法値、知性…その他もろもろもほぼ同じだ。
チラリとノヴァのステータスを見ても、戦闘力が500、魔法値は600と凡人とは比べ物にならない高い数値であるものの、ヒロインには敵わない。
「…私が動こう。…トラベル。」
頭の中に自然に浮かんできた転移の言葉。気づけば、囲んでいた兵達をすり抜けて、ヒロイン達の前にやってきていた。
「!だ、誰よ!このブス!」
…まるで戦場に似合わない豪華な装飾のついた服と、この大層な性格…大方私の理想を欲望のままに詰め込みすぎたが故に、最高に性格がひん曲がってしまったみたいだ。
「私は、アルカナの『マスター』。」
「あ、アルカナって!あの一度も戦に負けたことがないという…!?で、でも…アルカナに『マスター』なんて聞いたことが…」
王子が気の抜けたアホずらで驚く。最後の方は極小ボイスすぎて聞き取れなかったが、とりあえず話を進めた。
「つまり、この戦でお前達に勝たれると、その称号に泥を塗ってしまうのでね。大人しくおうちに帰ってくれないか?」
「そ、そんなバカなことを聞くわけがないでしょ…?!」
「そうか…それは残念だ。」
私が指をパチンと鳴らすと、私たちを囲む兵士たちが、端から順にどんどん頭がすっ飛んでいく。
流石のヒロイン達も動揺している。
「これは、時限爆弾。この周りにいる兵士たちの全ての首が吹き飛び終わったら…最後は…」
「「ヒィィィィ!」」
…逃げるの速いな。(そういや設定で50メートル4秒とか書いてたかも…)
遠くの方に構えていた魔法兵をブンブン揺らし説得して、大人しくお城へと転移していった。
「ばいばーい」




