黒歴史小説を山奥に埋めようとして、死ぬだなんて…!
雨が降っている。体が、冷たくなっていく。私、死ぬのかぁ。こんなバカみたいなことで…
こんな、高校生の時に書いた黒歴史小説を山奥に埋めようとして、死ぬだなんて…!
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「真弓!あんたの部屋、掃除しといたほうがいいわよ!私、掃除するの忘れちゃってたから♡」
「はいはい…」
私の名前は園田真弓。都内のしがないOLで、今は有給消化のために実家に帰省中だ。
「掃除を忘れたって…いつからされてないの…?」
下手すると、私の上京した5年前から掃除されてないことになってしまうのだけど…
意を決して入ってみると、…存外、というか私が上京した時のままのような。
お母さんは、あぁ言っていたがやはり定期的に掃除をしてくれたんだろう。親への感謝と共に、懐かしさから私は部屋を漁り出した。
すると、
バサっ
「ん…?」
ノートのようなものが本棚から落ちてきた。表紙には大きな㊙︎印と共に、こう書かれていた。
『THE NIGHT~ごく普通の高校生が、世界のラスボスを倒して、完璧王子とゴールインするまで~』
その瞬間、私に脳内で完全抹消していたはずの記憶が蘇る。
『うへへ…主人公は、黒髪黒目の私みたいなセミロングで~、最強で~、ヒーローは金髪碧眼イケメン王子!!』
「ヒョォォォォォォォ……!」
声にならない声が出た。
急に禍々しい雰囲気を醸し出してきたノート…思わず手が震える。ノートの中身を開く勇気さえもない。
これは…これは…私が高校生の時に書いた主人公(私♡)最強の黒歴史小説だぁぁぁぁぁぁ!
今すぐ…今すぐ処分しないと…!!
「お、お母さん!ちょっと山奥まで行ってくる!!」
「え?あんた、掃除終わったのかい?」
「帰ったらする!」
「昨日雨も降ったから、すぐ戻ってくるんだよ!」
__って言われてたのに、見事に山道のぬかるみに足を取られて脇にあった崖に落ちて、今これ。
そろそろ視界もぼやけてきた…。右手には埋め損ねた黒歴史小説がある。
せめて…私が死んだ時に、このノートが見つからないように…!
私は動かない体の最後の力を振り絞って、小説を投げた。
あぁ…どうか…どうか見つかりませんように…!
そして、環境保護団体さんごめんなさい…!
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マユミの書いた小説は、マユミからそう遠くない所へ投げ出され、その衝撃で、ノートが開きました。
その見開きにはひとつの人物紹介が書かれていました。
ノヴァ・ファタール ←顔面国宝!
グレイア王国最強のギルド魔法兵
所属ギルド:アルカナ
得意魔法:氷魔法 異次元の魔法が使える!!
戦場への度重なる出兵の影響で、表情を表に出さないように
でも、心を開いた相手にはこれでもかというほど溺愛する
貧困街で、アルカナに拾われ、以来忠誠を誓う。
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