第四章 帰り道の洞窟にて
初めての小説です。温かい目線で読んで頂けると嬉しいてす。
森での初めての討伐を終え、依頼も無事に達成。
帰り道を進んでいた剛とセレナは、偶然にも岩肌に口を開ける洞窟を見つけた。
入口はひんやりとした気配を放ち、奥からはかすかに風が吹き抜けてくる。
湿った土と鉱石の匂いが鼻をかすめ、剛の胸が高鳴った。
「……鉱脈かもしれない」
剛が低く呟くと、セレナが頷いた。
「ええ。冒険者の間では“灰色の小穴”と呼ばれる場所ですね。あまり大きな魔物はいませんが、鉱石は時折見つかるそうです」
剛の瞳がきらりと光る。
「行ってみよう」
♢
洞窟の中は薄暗く、滴る水音が響いていた。
壁面には光を帯びた苔が群生し、淡い緑の光で周囲を照らしている。
足元には砕けた鉱石の欠片が散らばり、所々に白く輝く鉱脈の筋が走っていた。
剛は腰を落とし、欠片を拾い上げる。
「……鉄じゃない。もっと軽い……いや、これは……」
指先でこすり、耳元で軽く叩くと、澄んだ音が鳴る。
セレナがそっと覗き込み、目を丸くした。
「ミスリル……! 低層の洞窟で採れるなんて……とても幸運です」
その言葉に、剛の胸が熱を帯びる。
ミスリル――金属の王とも呼ばれる、、前世では電気誘導や熱への高い耐性を備えていただが、この世界では軽さと強度、魔力伝導性を兼ね備えた希少素材。
鍛冶師にとって夢のような金属だった。
「……試してみるか」
剛は昨夜打った刀を抜き、洞窟の岩壁に向き直った。
居合の構えから、静かに一歩踏み込み――振り下ろす。
――ザンッ。
風を纏った刃が奔り、硬い岩をまるで木片のように断ち割った。
破片が飛び散り、岩肌からは青白く光るミスリル鉱脈が露わになる。しかし、刀はミスリルの硬さに負け大きく刃毀れしてしまった。しかし、
「……やっぱりだ」
剛の声は震えていた。
「風が……切り口を広げてくれる。素材採取にも向いてる。もう使い物にはならないが」
セレナは横で目を細め、彼の背中を静かに見つめていた。
「あなたの刀……鍛冶師としての技と、戦士としての技量。その両方が重なって、初めて形になっているのですね」
剛は刀を収め、深呼吸する。
「……俺はただ、いい素材が欲しいだけだ」
そう言いながらも、その声音には抑えきれぬ興奮が滲んでいた。
♢
二人は協力しながら、壁からミスリルを少しずつ削り取っていった。
セレナは魔力で岩を砕き、剛は刃で不要な部分を切り離す。
欠片はひとつひとつ《アイテムボックス》へと収められ、やがて小さな麻袋いっぱい分の収穫となった。
手にした最後の欠片を見つめ、剛はふっと笑う。
「これだけあれば……刀や防具だけじゃない。槍も打てるな」
セレナが小さく瞬きをする。
「槍も?」
「ああ。刀は斬撃に優れるが……戦いでは突きの間合いも必要になる。剣と槍、その両方を扱えれば幅が広がる」
その言葉に、セレナの目が柔らかく細められた。
「本当に……鍛冶師なのか、戦士なのか。どちらが本分なのか分からなくなりますね」
剛は照れくさそうに鼻をかき、肩をすくめる。
「俺にとっちゃ、鍛冶と戦いは同じだ。いい武器を打つには、戦いの中で確かめなきゃならない」
洞窟の奥へ差し込む風が、二人の髪を揺らした。
その瞬間、剛の胸に熱が走る。
――これから始まる鍛冶師としての冒険。
その第一歩が、確かに形を得たのだった。
こここうした方が良いとかあったコメントください。
ちなみに他に二つ書いているので投稿頻度は遅めです。




