第1章「初日」
初めての小説です。温かい目線で読んで頂けると嬉しいてす。
目を開けると、そこは一面の草原だった。
空はどこまでも高く澄み渡り、薄雲がゆっくりと流れていく。
耳を澄ませば、聞き慣れない鳥の鳴き声が遠くから響き、風が頬を撫でていくたびに、草原の緑が
波のように揺れた。
「
……ここが、異世界か」
鏡山剛は、思わず呟いた。
胸いっぱいに空気を吸い込む。瑞々しい草の香りが鼻を抜け、肺の奥まで新鮮な力が流れ込んでく
る。
前世で感じた重さや疲れが嘘のように消えていた。
試しに拳を握る。
――溢れるような力が、全身を駆け巡った。
ただそれだけの動作で、以前の自分とは桁違いの膂力を実感する。
「
……すげぇな。本当に、別の身体だ」
その横に、白銀の髪を持つ少女が静かに立っていた。
翡翠のような瞳が草原の光を映し出し、長い耳が風に揺れている。
彼女の名は――セレナ・エルフォリア。
神が示した「サポートキャラクター」の中から、剛が選んだ仲間だ。
「
……不思議な感覚。まるで、生まれ変わったような気分です」
セレナは小さく息を吐き、空を仰いだ。
「実際そうだろ。俺もだ」
剛は頷き、腰のポーチを探る。そこには、神から与えられた冒険者用の初期装備が収められてい
た。
革鎧。最低限の防具だ。
そして、鉄で作られた簡素な剣――攻撃力はたったの七。
刃を指先で確かめた剛は、苦笑いを浮かべる。
「
……鍛冶屋の魂を持つ俺からすれば、正直、心許ねぇな」
「なら、やはり素材を集めるところから始めないといけませんね」
セレナは落ち着いた声で答える。その眼差しは真剣だった。
「ああ。それに――」
剛は遠くを指差す。草原の向こう、霞んだ空の下に、小さな町の姿が見えていた。
「「あそこで――いや、いずれは街に限らず旅の途中でも、俺が打った武器を並べる店を持つ。
移動式の鍛冶屋だ。道行く冒険者がふらっと立ち寄って、気に入った武器を買ってくれる……そんな
光景を実現する」
セレナは驚いたように目を見開いたが、やがて柔らかく微笑んだ。
「
……素敵です。鍛冶屋さんが旅をしながら開くお店なんて、きっと多くの冒険者に喜ばれま
すよ」
剛も笑みを返す。
「そのためにも、まずは冒険だ。強い武器を作るには、強い敵を狩って、珍しい素材を集めねぇと」
視線は森へと向かう。
その奥には、ダンジョンが眠っていると聞いた。
ちょうどそのとき。
森の入口から、影が一つ、姿を現した。
獣じみた体躯に、粗末な棍棒を持つ小鬼――ゴブリンだ。
「
……来たな」
剛は鉄の剣を構え、息を整える。
同時に指先へと意識を集中させると、赤い火花が弾けた。
次の瞬間、小さな火球が掌に生まれる。
詠唱は一切ない。ただ意志だけで、炎が形を取った。
「――燃えろ」
火球が走り、ゴブリンの胸を直撃する。
「ギャッ……!」
苦鳴をあげ、よろめいたところに、剛が一気に間合いを詰める。
「はっ!」
鉄の剣を横薙ぎに振り抜いた。刃は抵抗なく肉を裂き、ゴブリンは崩れ落ちた。
「
……魔法がここまでスムーズに出るとはな」
剛は呼吸を整えながら呟く。
セレナが後方で弓を構えていた。
「さすが、神の加護を受けたハイヒューマンですね」
彼女の指先から、緑の光が矢尻に宿る。
放たれた光の矢は音もなく空を切り裂き、背後から迫っていた二体目のゴブリンを貫いた。
「無詠唱……やっぱりお前もか」
「ええ。詠唱なんて、言葉にするだけの飾りです。本気を出せば、意志ひとつで魔法は発動する」
二人は頷き合った。
剛の胸には確かな手応えがあった。
――これなら、どんな敵とも渡り合える。
そして、手に入れた素材で。
前世では作れなかった武具を、必ず鍛えられる。
「行くぞ、セレナ」
「はい」
二人の冒険の第一歩は、こうして静かに、しかし力強く刻まれた。
こここうした方が良いとかあったコメントください。
ちなみに他に二つ書いているので投稿頻度は遅めです。
どんな酷評でも大歓迎です




