第9話 ーー薬売りの魔女ーー
「それはこっち、あれはあっちだ」
「は、はい!」
俺は今、ものすごいくらいこき使われている。薬っぽいやつや材料っぽいやつを運んで、棚に整理してなど…。開店時間なのか客も来ている。
「ほう。腰痛かね。それなら良い薬がある」
町の住人とも仲良く話しており、頼りにされている様子だ。ぱぱっと薬の説明をしてお金をもらって帰らせる。流れ作業だ。俺も詳しくは見れていないが、町の人達もみんな優しそうで、本当に良い町だと思った。
時はすぐに過ぎていき、もう夕方だ。閉店時間のようで、店を閉める。
「よくやったな。こっちも手伝ってもらって助かったよ」
「はぁはぁ…いえいえ。それにしても、良い町ですね。人もみんな穏やかそうで」
「…さぁな。平和だから穏やかなだけ、かもしれんぞ」
夕日を眺めながら言ったゼロさんの意味深そうな言葉。何か意味があるんだろうか。俺は少し気にしながら、店の締め作業を手伝う。
「あたしからの忠告を一つしておきたい」
「…?それは一体どういう意味で?」
「もし旅をするなら、同じ世界に留まりすぎるな。仲間が出来ると、別れが寂しくなる」
俺はその言葉にハッとする。仲間を作るなと言い、同じ世界に留まるなと言い、全て悲しい終わりを迎えるのを阻止している言葉だ。あの人の時だって、俺は別れが悲しかった。もし、関わっていなければ、異世界に来ることはなかっただろうけど、悲しい思いもしなくて良かった。心得ておこう。
締め作業が終わった俺らは帰る支度をする。荷物を持ち、ゼロさんの後ろに乗り、来た時と同じように飛ぶ。
「ほれ、疲れただろう」
「あ、ありがとうございます!」
疲れ果てて椅子に着いた時、一瞬で開放感が身体を巡った。ゼロさんも立ちっぱなしだったはずなのに、スープを温め、器に入れて持ってきてくれる。
「ぷはー。これ、どうやって作ってるんですか?」
「簡単だ。キノコや動物の骨、あとはそこら辺の薬草か何かを混ぜ合わせるだけだ」
「魔法とかは使わないんですか?美味しくなる魔法的な」
「そんなもの使わないさ。魔法なんてまやかし。所詮は都合の良いように誤魔化す手段でしかないのさ。万能だけど有能じゃない。この世界には、必要なものじゃない」
流石は魔女だ。魔法のことを何よりも理解している。もし魔法が使えたらこの人みたいになりたいな〜。
「はっはっは。無理を言うな。もしあんたが魔法使いになったら、人前に姿を出さないことだね。頼られてばかりで、どうも暇じゃなくなっちまうよ」
2人で笑い合った。この時点で、俺はこの人との別れが寂しくなってしまうことが確定した。俺は確かに異世界に来たんだ。だったら、このままこの世界で過ごすのだって…
「やめときな。あんたは旅をした方が良い」
意図がまるで分からないが、先を見ているゼロさんの言うことなら意味があるんだろう。俺はそのまま、ソファの上で眠ってしまった。