第4話 ーー異世界についてーー
「ぐがぁ〜。ぐ…んあ?…いい匂いすんな」
「あ、起きました?今朝食を作ってるところです」
この人は異世界人。獣と人間の融合体で、獣人と言うらしい。
「俺の分も作ってんのか!悪いな〜」
「思ってないでしょ…」
色々あって渋々家に入れている感じだが、その分色々な情報が手に入る。今日が休みだったのが幸運で、異世界系漫画を獣人さんに見せることにした。
「はえ〜。漫画だとこんな風に描かれてんのな」
「それで、どうなんですか?こんな感じなんですか?」
「いいや全然。そもそも俺らが出来んのは異世界転移だから転生系の特殊スキルみたいなのは無いぞ」
「え、じゃあ異世界に行ったら最強になるとか…」
「無いぞ」
俺は絶望した。無双とかしてみたかったのに…
「楽して強くなるなんぞ出来ないんだよ。でもそうだな、魔法とか超能力とか使える世界で覚えれば重複が出来る。実質最強みたいにはなれんじゃね?」
「な、なるほど。世界に種類があるとこんなに大変なんですね…」
「そんなもんだ。理想通りに行くことなんてほとんどないからな」
楽に最強を目指すのは無理でも、多少の努力で近付くことは出来る。それにおいても異世界転移を上手く使わなきゃいけなさそうだ。色々考えているうちに、獣人はハーレム系を手に取る。
「お、エルフか。懐かしいな」
「会ったことあるんですか?」
「そりゃあな。まぁほとんどの世界はこんな綺麗なエルフ居ないけど…一つだけ、あるぜ?」
俺は息を呑んだ。今の所唯一漫画通りに行けそうな異世界だ。下心なんて無い。
「…どこですか?」
「バダライアって名前の世界がある。そこのエルフはもう可愛くて可愛くてな。大人風のやつもいれば、こういうツンデレ風のやつまで、幅広い」
「おぉー!」
「おまけに、夜の店も…」
「…行ったんですか?」
「当たり前だろ?」
いつの間にか意気投合してしまい、互いに笑い合っていた。
「がはははは!侮れないもんだな、こんなに気が合うやつと会えるなんて!」
「あははは。異世界人って言うものですから、もっと怖いものかと思ってましたよ」
まるで飲み友達かのように振る舞っていた。そんな時、ふと疑問に思ったことがあった。
「あの、やっぱり帰るんですか…?」
「うーん?そうだな。俺は旅人だからな、いつまでもこの世界にいるわけにはいかない。もしかしたらまた来るかもだが。選べないってのが難点だよな〜」
「選べない?異世界に行くのってランダムなんですか?」
「そうだぞ。どの世界に行くとかは決められない。だから元の世界に戻りたいとか思ってももう手遅れなんだ」
「な、なるほど…」
つまり、異世界人が少ないこの世界では帰れる確率が限りなく低いのでは? 話によると、転移者自体は相当数いるらしいし、その中でもこの世界に来た異世界人はこの人が初めて。つまりそういうことだろう。
「嫌なら転移しようとすんな。分かってるとは思うが、この世界は他の世界との繋がりが薄い。帰れるなんて期待しない方がいい」
「はい…」
もう2度と帰れない…この世界は良くも悪くも俺の故郷だ。両親の墓参りも行けなくなると考えると…少し寂しくなる。
「…一個だけ、噂程度に聞いた事がある」
「え?」
「全ての道となる世界『ローディア』。この世界は風神とか雷神とか、あらゆる神が居るらしい。中でもその神々が人間に手を貸す期間、後継ぎ争いの時に、上位の神の後継ぎになることで好きな世界を行き来出来るらしい」
「全ての道…」
「どうやら、いろんな世界と繋がってるから1番繋がる確率が高い世界らしいぞ。そりゃあ繋がりが多ければ確率も高くなる」
1番行きやすくて1番待遇が良くなるかもしれないってことか?というか後継ぎって…俺が世界の神になるってこと?異世界について色々な情報が押し押せてきて手一杯だ。それにしても、この人と話してると時間を忘れてしまう。あっという間に夕方となり、空がオレンジ色になる。
「それでな、」
まだ話し込んでいる中、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。