第3話 ーー扉の条件ーー
「んめー!この野菜お前が作ってんだろ?うめーぞ!」
「は、はい…」
突然家に入ってきたと思ったら、冷蔵庫を漁って作り置きしておいたご飯を食べられる。体格差があるからか、俺の一日分の食料を一食で完食してしまう。腹が膨れたのか、床に寝っ転がって休んでいるようだ。
「あ、そうそう。匿ってもらってる礼だ。何でも答えてやるぜ?」
「え、うーん…」
今答えてもらえるとなっても異世界への行き方は分からないみたいだし、特に聞くことも…と思った。少し考えてみるがやはり思い浮かばない。でも一つ気になったことを言っていたな。
「その、ほとんどの世界ってどういう意味だったんですか?」
「ん?あーあれか。そのまんまだぞ?」
「それってつまり…異世界は複数存在する、ってことですか?」
「そういうことだ」
「と、言うことは、異世界の異世界…とか?」
「異世界の異世界の異世界もあるぜ。何種類かは知らないけどな」
これはまた新しい情報だ。異世界が複数あるとしたら、選択肢があるということだろうか?
「あー、お前あれか。異世界への行き方聞いてきたやつか」
「は、はい」(覚えてたんだ…)
「まぁ最初の異世界への扉の開き方は知らねーけど、俺が開いた時の状況なら説明出来るけど。どうする?」
俺は目が点になった。そんな情報があるんだったら初めから知りたかった。でもあの状況だと短くしか答えられないか。
「聞かせてください!」
「おうよ。俺はなぁ、俗に言う凶悪犯だったんだ。大量殺人っつーのかな」
「…へ?」
大量殺人!?殺人鬼!?え、俺殺される?
「がはっは!安心しろよ、冤罪だ。実際には殺しちゃいねーよ。でも誰かがなすりつけたんだろうな。いきなり警察の連中が取り囲みやがって、ビビったぜ」
「ん?今ここにいるってことは、逃げてきたんですか?やっていないんだったら証拠とか…」
「あの世界は警察も腐ってるからな。犯人だと決めつけれればそれでいんだよ。だからこそ、捕まったら終わりだと思った。俺を捕まえるために、あいつらは拳銃を撃ってきやがったんだ。それでも逃げてやったぜ、死にそうだったけどな」
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「追え!向こうに行ったぞ!」
「はぁはぁ…くそっ!」
いきなりの事で何がなんだか分かんなかったんだけどな。逃げるしかなかったんだ。街中でも平気で発報するようなやつらに話が通じると思うか? そういうことだ。
「ここまで来れば、平気か?」
誰も居ない廃墟。そこが俺の逃げ場だった。追手も来てる様子が無かったし、絶好の隠れ場だった。
「怪我は…足と横っ腹か。いってて。ちくしょー。何で俺がこんな目に」
銃弾がいくつか当たってて、とても動ける状況じゃなかった。かと言ってそのままだと死ぬわけでもなかったけどな。気付いたら俺は眠っていた。目を覚ました時は、既に包囲されてた時だ。
「そこに居るのは分かっている。今すぐ降伏しろ」
「ちっ、銃弾の中に発信機を仕込みやがったか」
この時、俺は警察どもを憎んだ。憎んで憎んで仕方なかった。でも身体は上手く動かない。痛みで麻痺してきたぐらいだ。諦めるしかなかった。
「あーあ。終わりか。ここで逆らおうが降伏しようが、どっちみち死ぬ。俺の人生こんなもんか」
どうせ生きていてもろくなことがない。筋トレしかしてなかったし、仕事も普通。彼女だって居たことなかったし。
(でも、そうだなぁ。涙が出るほどうめーもん、食いたかったなぁ)
下らないことだと思っただろ?最後なんてそんなもんだ。だが、もしかしたらこれがきっかけかもしれねー。目の前に謎の空間が出てきた。
(こりゃあ、一体…)
「突撃!!!」
「あ、あれ?隊長!どこにも居ません!」
「くそ!あいつどこに行きやがった!探せ!」
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「俺の目の前に現れた空間、それがホールだ。渦巻きみたいな模様してて、明らかに異様感が漂ってる」
「なるほど…」(原因は死から逃れようとする意思?でもそれなら今までも転移者が出てきてもおかしくないはず…)
話を聞く限り、何かしらの心情が鍵になる気がした。この世界に来た時に傷だらけじゃなかったことからも、異世界が複数あるのも事実だと確信。
「多分お前も出来ると思うぜ。俺がこの世界に来れたんだ」
「それってどういう?」
「まぁ噂程度にしか聞いたことないんだけどよ。扉があれば種がある。簡単に言うと、異世界から異世界に行く扉があるってことは、異世界への扉を開くやつがいるってことだ。ここからが信用してないとこなんだが…それが全員って言われてる」
「つまり、俺でも、この国の全員でも、異世界に行けると?」
「信じてねーけどな。ふぁーあ。今日はもう寝る。話は明日だ」
テレビでやってないような情報ばかりだ。国はそれを知りたがってないのか、もしくは…やはり民間の疑問を解くには、民間人が質問しないと意味がないかもな。今日はもう遅いし寝よう。明日は休みだ。