第2話 ーー異世界人ーー
「お、おぉー!あれが異世界人の姿!」
期待に胸を膨らませて入った一部屋。ガラスで作られたカプセルのような物の中で眠っている様子。
(あれが異世界人…本当に獣と人の融合体だな。それにしても身体がでかい…軽く見積もって2.3メートルはあるんじゃないか?)
「みなさん、こちらが先日突然現れた異世界人です!研究の結果、DNAから見てもこの世界中どこを探してもいない生物ということが確定致しました!」
「ほげー。すごいっすねー。先輩はどう思いま…うわ、」
「なるほど…耳だけでなく尻尾も生えてるのか…それどころか牙まで…手足は人間とほとんど同じなのに獣の遺伝子も継いでいるのか…これは興味深い…(早口)」
俺はあまりの衝撃に自分の世界に浸ってしまった。後輩に軽く引かれてしまっただろうが許容範囲内だ。俺がじっくりと観察していると、
「うーん…ん?」
まさかの異世界人が目を覚ます。起き上がろうとしてガラスに頭をぶつける。ガラスがあるのを確認してドンドンと開けろとアピールしている。
「き、緊急事態です!異世界人が目を覚ましました!」
焦っている俺らとは裏腹に、研究員の人達は落ち着いて対処している。何人かの研究員が俺らの前に来て銃を構えている。麻酔銃だろうか。1人の研究員がゆっくりとガラスのカプセルを開ける。
「そんなに警戒しなくて大丈夫だ。俺は危害を加えるつもりはない」
「しゃ、喋ったーーー!!!!????」
両手を上げた異世界人が俺らの言語を喋った。あまりの驚きに大声を出してしまった。でも起き上がったと言う事はチャンスだ。どうやって異世界から来たのか。俺も行けるのか。
「あ、あの!異世界について質問が!」
「ちょっと!勝手な事はいけません!と、とにかく一般人の方は退場を…」
「いや、待ちな。このままじゃあ一般のやつらに説明が付かないんじゃねーのか。だったら、一般人レベルの質問に答えて、それなりの解を用意した方が合理的だ」
(国がする質問では一般人の疑問を解けないと分かってる…?隠蔽されでもしたら面倒になることも分かってるみたいだ…)
この異世界人は随分と知能があるみたいだ。とても寝起きとは思えない。冷静でこの国にとっても正しくなる判断を即興で…。
「そんで?質問ってなんだ?1人1つまでだぞ」
「は、はい!その、どうやって異世界に行けば良いんでしょうか!」
まぁあるあるの質問だなという風にニヤけながら話し出す。
「そうだな。異世界への扉を開けば一瞬だぜ?悪いが開き方はよく分からねーんだがな」
「ホール?聞いた事ない…」
「はい次だ!」
(えそれだけ!?)
行き方も分からない。よく分からない単語を言われる。これが相まって中々に萎縮してしまった。結局何も分からずじまい…。俺は肩を落としながら研究室を出る。
「いやー結局異世界への行き方はよく分かりませんでしたね。あ、ちなみにあの異世界人は獣人っていう種族らしいっすよ」
「そうか…良かったな…」
俺は落ち込みすぎて話にならなかったと思う。帰りに後輩と酒をたらふく飲んで忘れようとしたが、そう上手くいかなかった。夕日が見える時間帯、俺は家に着く。
「う゛ー…何で異世界に行けないんだー…」
俺はベッドに寝込み、1人涙する。現実とはなんとも無情なものだ。テレビを着けると、あの獣人がニュースになっている。国民がしていた質問から、国がした質問まで、全てを載せているようだ。異世界のことばかりで、肝心な行き方は載っていない。これじゃあ意味が…そう思っていると、不自然にドアノブがガチャガチャされる。それに気付いた時にはもう遅く、バキっと何かが壊れた音がした。
「おっと、悪ぃ。壊しちまったみたいだ」
「ったくこんな時に泥棒なんてついてな…へ?」
目の前にはさっきの獣人。俺の中の時が止まった。色んなものが頭の中をよぎる中、獣人が口を開ける。
「お前、あん時質問しに来たやつだよな。覚えてるぜ。ところでよ、ここで匿ってくれねーか?」
「え、いや何で急に…」
「あそこのやつらやべーぞ。実験とか言って腕切断しようとしてくんのな。流石に脱出して逃げてきたぜ。筋肉馬鹿で良かったぜ、ははは」
「え、じゃあ追いかけられてるって事なんじゃ…」
ふとテレビを見ると、丁度そのことをニュースでやっている。
〔現在逃亡中の異世界人は、どこにいるか未だに分かっていません。もし捕まえた場合、国から1億ゼスの報酬が発生します〕
「い、1億ゼス!?」
1億ゼスもあれば余生を中心地で過ごせる。毎日が高級な暮らしになって困ることもなし…
〔一方もし匿ったり等した場合は、その場で死刑になるのでお気をつけください。見つけた場合は早めの連絡を〕
「し、死刑…」
「お、俺がニュースになってやがる。お前死刑かもな!がははは」
このまま匿えば死刑になる…もしこっそり売れば余生を中心地で…俺は究極の2択に悩まされる。新しい冒険の道か、安定した道か。
「まぁ座ろうや。あ、あと電話とかしたら分かるからな。獣人の耳舐めんじゃねーぞ」
「そ、そうですか…」(最悪外まで行って通報も…)
「それともう一個。俺は人を殺すのに躊躇しない。そんな世界ばっかだったからな。そん時は悪い」
「ん?そんな世界ばっか?」
俺は結果的に庇うしかなくなった。でももしこれで異世界に行けたら、俺は絶対に後悔しないだろう。