オフホワイトは村を出る
ここはブラハネス王国の南の端の小さな村。
王都から一番離れたその村では、去年スキル贈呈式で有史以来初めての例外が出ました。
その名はレク。
村の大人たちはその例外に対して、“完全に無かったことにする”という対処を行いました。
そんなレクが村を出る決意をしました。
レクはいつものように過酷な作業場へ向かう代わりに、貯金を持って村の門へ向かいました。
赤いレンガでつくられた数々の家を通り過ぎていく中、そこに住む人たちの視線がレクに突き刺さります。
あのスキル贈呈式でスキルをもらえた元友達、たまにお使いに行くパン屋のおばさん、、、。
いつもは見かけないレクが街中を歩いているのを見て、声をかけようか戸惑っています。
そんな中、レクは村の門に着きました。
王都から派遣された高価そうな服を着た巨大な門番が硬い石でできた大きな門の前で座っています。
門番は顔をレクの方に向けました。
「なんだ、坊主。こんなとこまで来て。冒険者志望なら第一種免許証は持ってるんだろうな。」
門番がこう言うと、レクはこう尋ねました。
「第一種免許証、、?なんですかそれ。」
かつて世界を旅した少年、フキョウの日記にはそんなもの書いてありませんでした。
門番は少しめんどくさがりながらも仕事なので説明を始めました。
その話は十四分にも渡りましたが要約すると、危険な魔物たちの住む村の外でも生きていける戦闘能力があることを示す証が必要だということです。
もちろんレクは持っていません。
門番に門前払いされてしまいました。
レクは仕事をサボって来た以上、家に帰ることもできません。
レクは途方に暮れました。
とぼとぼと行く当てもなく歩いているとお腹がぐ〜、と鳴りました。
そういえば、いつも仕事場でまかないの朝食をもらっているので、朝から何も食べていません。
レクは門に背中を預けて座り込み、少し目を閉じました。
レクは久しぶりに十分な休息をとったことで、その意識が一瞬のうちに消えていきました。
「寝過ぎた。」
レクが目を覚ますと、空はもう赤色に染まっていました。
そして門番がこっちをみて目を見開いていました。
「おい、小僧。お前、その、幽霊か?」
門番が失礼なことを聞いて来ます。
「いや、そんなわけないじゃないですか」
冗談だと思い、レクは笑いながら返しました。
しかし、門番の様子を見るに冗談ではなさそうです。
気になったレクは聞いてみました。
門番のいうことには、レクが門に寄りかかって少し経つと、レクの体が透けて来たそうです。
そして完全に消え去り、ひとまず親御さんたちに報告に行ったけども、親御さんたちはいなくなったならいなくなったでいいとのことで何もなく、ならいいか、と門に戻ってきたらレクが現れていたらしいのです。
レクはこれまで消えた記憶はなく、、いや、スキル贈呈式の時に一回だけ消えたことがありました。
それを思い出したレクは、それが自分のスキルだと思い、目をつぶって念じてみました。
「おい、お前そこで何してんだよ。」
門番の声が聞こえ目を開くも、どうやら消えていなかったそうです。
レクは自分のスキルについて少し調べてみることにしました。
しかしそんなことよりお腹が空いています。
家にも帰れないため幽霊だと脅し、門番に残飯を食わせてもらうことにしました。
案の定門番は心霊に弱かったです。
門番の家での晩飯はいつものまかないよりもはるかに豪華でした。
大きい骨付き肉、美味しい鶏ガラスープ、外はサクサク、中はふわふわな美味しいパン。
レクは十分に腹を満たしました。
その日の夜、レクはひたすらスキルについての研究を行いました。
事情を話し、門番にも手伝ってもらい、研究はみるみるうちに進んでいきました。
そして全身の力を抜くと、目を閉じずとも透明になれることが判明しました。
しかし鏡にも映るし写真にも残ります。
あくまで肉眼でのみ見れないそうです。
でも自分のスキルがわかっただけでもレクは嬉しい気持ちになりました。
次の日の朝、遅くまで付き合ってもらった門番に第一種免許証のとり方を教えてもらいました。
どうやら、条件を満たし、門番のハンコさえ貰えばいいらしいです。
ということで規則にのっとり、低級魔物のマモノブタと戦い、三分以内に勝利することを条件にハンコを押してもらうことになりました。
門番によってマモノブタが連れられて来ました。
「なにかあったらすぐに助けに行く。」
そう言ってくれた門番が見守る中、戦いが始まりました。
レクはすぐに力を抜き、姿を消しました。
マモノブタは最初にレクがいた場所へ向かって突進しました。
が、すでにそこにはレクはいません。
脱力しながらふらふらと歩き、力を込めないように大きな岩を持ったレクは、マモノブタの背後に回り込んでいました。
マモノブタが後ろを振り返ると同時にレクは岩を下に落とし、マモノブタをぺちゃんこにしてしまいました。
「やめ」の合図を門番は出し、挑戦成功のハンコを第一種免許証に押しました。
門番に頼んだとおり、村の人たちがレクは死んだと思っている中、人知れずレクは村を出ました。
レクはお世話になった門番に礼をし、門番も餞別に潰したマモノブタの肉を含む少しの食料と石の斧を渡し、レクは楽園への一歩を踏み出しました。
ブラハネス王国のルール
領地は村や町に分かれている。
別の村や町に移動する場合には第一種免許証が必要である。