殺人卿──自殺志願①
きっと会えると。彼はそんな予感がしていた。
けど、何処で会えるかなんて分かるはずもなく。
当てもなく自転車を漕ぐしかなかった。
車輪の音が静かな夜に響いていた。がらんどうと化した今の街は、全く生きた生物の音はしない。
どうやら近頃の殺人鬼が夜の街を殺したようだ。
殺人鬼は一ヶ月前から手当たり次第に、夜の徘徊者を綺麗に殺していたりする。驚くことに、痕跡を何も残さずに人の心臓を一刺らしい。
彼──室蘭 淵屋にとっては、これほど良い相手はいない。間違いなく綺麗に殺してくれると彼は、心酔しきった信者のような妄言を信じていた。生きるのに疲れ切ったこの身体を、楽に心地良く傷付けてくれるはずだと。
そんな不確かな確信をしていた....。
◆▽◆▽◆▽◆
一方。殺人狂ならぬ殺人卿は、同じくがらんとした街を優雅に闊歩していた。さながら、夜の散歩といったところだ。あくまでも、第三者から見た格好がその様に見えるだけだが。
「ふむふむ。ここら一帯はやけに静かだね。住んでいる人間全員、死んでいるんじゃないのか────うん?? この響く音は、自転車のペダルを踏み込む音に聞こえるのだが。成る程成る程」
人が一人いるみたいだね、と殺人卿はさっきまでの退屈そうな表情から一気に。にやにやした気味の悪い笑顔へと変わった。