またね
「またね」
僕は彼女にそう言った。
色々考えていたはずなのに、結局全てが真っ白になって、いつものようにいつもとは違うその言葉を口から漏らした。彼女はよくわからない表情で笑って同じようにまたね、と返してきた。
空港によく漂っている特有の空気が流れ始めた。
今更言うようなこともなく。力なく、不器用に笑おうとする。本当は涙があふれそうなのを頑張って止める。
彼女も何も言えずに黙り込んでしまう。
結局期待していたようなことは何もなく、見た目だけはいつも見たいな最後を迎える。
去り際の彼女の後ろ姿は夕日に照らされ、哀愁を帯びていた。もしかしたらそれは僕の願望で、そうあって欲しいと思っていたからかもしれない。
頭の中で僕と彼女が言った言葉が響く。
またね
その言葉は、今まで何百回も何千回も繰り返してきたまたね、とは少し違う意味を含んでいた。言葉にしてみれば少しの違い、だが僕にとってそれは途方もないほどに大きかった。
いつもは特別深い意味もなく、当たり前のように明日も会えると思ってその言葉を言っていた。だけど今回は違う。次に会えるのがいつかもわからない。もし会える時が来たとしてもそれは確実にもっと遠い未来の話だ。
たとえその未来が数年であろうと、数ヶ月であろうと、どれだけ短い期間であろうと、もしかしたら次はないかもしれないという不安が僕の心を締め付ける。
思い返せば僕はたくさんの人と出会ってきた。
そしてたくさんの人と別れてきた。
どこにいようが、僕達の関係に変わりはない
なんて言うが、物理的な距離は思ったよりも大きい。どこにいようと今の世の中コミュニケーション手段はいくらでもある。だからそんなことはいくらでも解決のしようがあるのかもしれないが、そういうのは僕に向いていなかった。
結局話さなくなってしまった。結局他人になってしまった。結局過去になってしまった。
彼女もそんなたくさんの人の中の一人になってしまうのだろうか。努力も空しく華麗な思い出は、もう戻ることのない過去として散ってしまうのだろうか。
それはいやだ。
でもどうしようもない。
当たり前にまたね、と言えていた、そんな日々を思い出すと抑えていたものが溢れだした。
半分実話