87.気持ちの底
人見知りだったはずの雪は、その性格を忘れたかのように積極性をみせる。
ソファーに座ってテレビを見ている燈夏の隣に座ってみたり。
「な、なに......ですか」
「んーん。 なにみてるのかなって」
「......距離、近くないですか」
「あ、ごめん! ついつい」
ついついなんてレベルじゃねーぞ!?肩がぴったりとくっついていて、外から見ている分には微笑ましいけれど、燈夏の攻撃的な性格を知っている俺としてはドキドキがとまらない!
「燈夏さんは、こういうのが好きなの?」
テレビに映っているのは、動物番組。親父が出掛けている隙に録画していたものを消化してるんだろう。
「好きですけど」
「そっかぁ。 私も猫すきだよ~」
「私は犬派です」
「あー、わんこ! わんこも可愛いよね」
「......」
燈夏の塩対応を意に介さず、雪はずんずんと攻め込む。
「......」
「......」
空気ヤバ。
雪はにこにこと笑っているが、燈夏は推理もののドラマでもみてるのかのように険しい顔をしている。
同じテレビ番組をみてこうも対照的な顔になるのか。
そんな事を考えながら二人の様子をみていると、母さんが飲み物とお菓子を俺と二人の前においた。
「あらあら、雪さんと仲良しになったのね燈夏、そんなにぴったりと体を寄せて、ふふ」
「......(はぁん!?)」
「はい!」
「ふふふ」
俺だけ?圧迫感を感じているの。燈夏の怒りメーターそろそろ振り切れるんじゃないのこれ。
すると、燈夏が唐突に録画の再生をとめた。
「......疲れた。 部屋戻る」
「あ、燈夏さん」
「あら、燈夏......」
そのまま母さんと雪の呼び掛けには応じず、二階の自室へと歩いていった。
「どうしたのかしらね? ごめんなさいね、雪さん」
「あ、いえ。 機嫌を悪くさせちゃったかな......」
「ううん、多分違うわ。 もしかしたら、拗ねてるのかもしれないわね」
「拗ねてる?」
「ええ。 一樹、急にこんな美人さんを彼女にしてくるんだもん。 多分、ヤキモチね」
「ヤキモチ......成る程」
「お兄ちゃんをとられたー!って思っているのよ、ふふ」
「あはは......」
雪は少し寂しそうに笑った。
「あの子ね、中学校くらいまで一樹にべったりだったのよ?」
「え、そうなんですか!」
「うんうん。 お兄ちゃんのお嫁さんになる~って、毎日言ってたわ。 ね、一樹?」
「あー、まあ」
確かに昔はそうだったかな。あの頃の燈夏はよく笑っていて、可愛らしかった。
......ん、そういえばいつからあんな調子でツンツンするようになったんだ?
うーん、思い出せない。
「ただいまー!」
「あ、お父さん、お帰りなさい」
「お帰りなさい!」
「お帰り」
親父は夕食に使うものと思われる食材の入った袋を、手からぶら下げていた。
「おお、雪さん! ゆっくりできているかな?」
「はい! ありがとうございます!」
にんまりと笑う親父。そんな顔、出来たんだな......。
「あれ、燈夏は?」
「部屋に行っちゃったわ」
「あらまあ、あんなに一樹一樹~ってうるさかったのになあ」
「一樹、夕食の時も出てこないようなら、呼んできてくれない?」
「え、俺が?」
「そーよ! 燈夏はあんたが帰って来るのをずっと楽しみにしてたんだから。 お願いね」
う、うーん。機嫌悪そうだったし殴られそうで怖いんだが。
それから親父と母さんと雪が楽しそうに談笑していた。二人とも嬉しそうだったな。
俺が彼女を連れてくるなんて、ありえない事......余程嬉しかったのかな。
良かった。
なら、俺は俺のやることを......。
予想通り、夕食付近になっても燈夏は出てこなかった。
「頑張ってね、お兄ちゃん」
「......からかうなよ」
「からかってないよ。 ......頑張って、一樹」
「......うん、わかった」
燈夏の部屋の前に立つ。
ふぅ。
――コンコン
【とても大切なお知らせ】
少しでも面白い、先が気になる!続きはよ!と思って頂けたら、広告の下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして応援していただけると、とても励みになり執筆へのやる気につながります!
ブックマークもとっても嬉しいので、よければお願いします!
いつも読んでくれて本当にありがとうございます!( ノ_ _)ノ




