86.好き嫌い
燈夏は睨み付けるでもなく、どちらかといえば恨めしいような目付きで雪をみつめていた。
「あのあの、燈夏さん」
「な、なに、ですか」
「えっと......な、仲良くしてくださいね!」
「......」
じろじろとなめ回すように雪を見ている。なんだろう、警戒している猫みたいだな。
「あの......燈夏さん?」
戸惑う雪を差し置き、燈夏は俺に不意打ちをしてきた。
「お兄ちゃん、雪さんのどこが好きなの」
えーーーーっ
「ど、どどどど、どこがって」
「ちょ、なんなん。 なんでそんなにキョドってるのさ。 キモッ」
「キモいとか言うな!! えー、好きなところ......思いやりがあって......綺麗だし可愛いところもあって、てか全てが可愛い。 あと綺麗だし思いやりがある」
言いながらふと妹へ視線を戻すと、くちを「へ」の形にして残念そうな顔をしていた。
あ、うん。褒め言葉の語彙力死んでるね、小説家なのほんとに?と思わなくはない。
けれど普通こんなの恥ずかし死にするから、無理なんだよね。
「......キモッ」
「オイ!!」
どのみちキモいの!?
「あははは」
妙なやり取りを隣で眺めていた雪が爆笑していた。
「わ、笑うなよ......」
「ごめんごめん、でも可笑しくて」
「ゆ、雪さんは?」
指で涙を拭い、雪がにんまりと答えた。
「真っ直ぐな所かなー」
「......真っ直ぐ?」
「うん。 真っ直ぐ......真っ直ぐ進んでいくところ。 苦しくても辛くても、歩き続けて......そんな姿がカッコいい」
「......」
てっきりキモッ!が飛んでくるかと思ったが、燈夏はうつむいて物思いにふけている。
......俺の事嫌いなんじゃなかったっけ?なんでこんな絡んでくるんだ?
わけわからんな。相変わらず。
妹ってみんなこんなんなの?
「――邪魔」
「っと」
スッと横を通り部屋を出ていく妹。ちらりと見えた横顔。眉間にシワを寄せていた事に気がつく。
――バタン。
扉は閉められ、部屋には俺と雪、そしてぐちゃぐちゃにされたベッド上の布団が残った。
「燈夏さん可愛いね」
「えええっ」
「すごい一樹の事が好きなんだねえ。 私の事をなまら敵視してるし」
「敵視!? なんで!?」
「そりゃあ、大好きなお兄ちゃんを奪いに来た女だからですよ。 ありゃ、お気づきでない......?」
「は、はぁ......」
「おいおいおい! お兄ちゃん! 鈍感すぎないか......」
「雪にはそんな風に見えるのか? あれは単に俺が嫌われているからだろ」
「そんなわけないじゃん!」
雪が指をさす。そこにはめったくたになった布団がある。
「嫌いならあんなふうに布団の中で好き好き言わないでしょ」
え、あ......聞こえたんですね。
すまん、燈夏。お前、変態のイメージついちまったわ。
「......いや、それは」
――それは?
......いや、そうだよ。あいつ、俺の布団にくるまって確かに言っていた。
なのにまた俺は眼を背けて......また、か。
見ないふり、見えてないふり。
「......それは、なに?」
「いや。 そうだな......確かに、雪の言うとおりかも」
「ふふん」
「けれど、まあ、あれだよ。 難しいところでもある」
「何が?」
「雪と太一のとことは違うからな。 ほら、俺と燈夏は数年もあってなかったし......どんな顔して話していいかもわからん」
「あー、まあ、そうだね。 でも別に無理に近づかなくてもいいんじゃない?」
「そ、そう?」
「大切なのは気持ち......ちゃんと相手を理解する事でしょ?」
「あ」
それはラストファンタジア、ノアの台詞。
『相手を理解する事。 それだけで良いんだよ』
理解し、その想いを......受け取る。
妹とはきっと、昔のように仲良く遊ぶことも話すこともないだろう。
けれど、その好意はしっかり受け取らなければ。
「けれど、それはそれ、これはこれ!」
「?」
「私は妹ちゃんと......燈夏さんと仲良くなりたいです!」
「あ、はい」
......あれ、つーか雪さん人見知りは?あれ?
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