83.生まれる音 (真城太一 視点)
あれから雪はどんどんと追い込まれていった......ようにみえた。
俺のせいで、俺のぶんまで期待を背負わされ、潰れかけている彼女をみていると、俺はいてもたってもいられなくなった。
――俺は、何も見えてなかった。だから雪はあれだけ苦しんで......どうしたら、救える?俺は......どうすれば......。
そうだ、俺が......してもらったこと。姉ちゃんに、してもらった。
――だから時々自分の部屋へと招き入れ、アニメや漫画を見せたりし始めた......姉が俺へしてくれたように。
少しの頼道、一時の憩いの場にでもなれば、と。
それは、おせっかいか、もしかすると邪魔になっているかもしれないが、姉にしてもらったときの喜びや拠り所にしていたあの頃の気持ちを思うと、これが妹には必要だと思った。
「お兄ちゃん、この子......」
「ん?」
ふいに、雪は観ていたアニメを指差す。
「すごく可愛いね」
見ればそれは猫耳の少女だった。
「こういうのが好きなのか?」
「うん。 可愛いよね。 目もさ、私と違ってツンツンしてないし、女の子って感じがするよ」
「......それ、気にしてんの?」
「まあ、多少は。 お姉ちゃんは美人だからあれだけど......私はちょっとね」
それ、とは。家の家系は遺伝的につり目になる傾向が強く、妹も例にもれずつり目だった。
しかし、まさかそれが嫌だったなんて......全然気がつかなかったな。
「てか、お前も美人さんの部類だぞ」
「あはは、ありがとー」
軽く流された......まあ、人は自分の持っているものより人のものの方が魅力的に見えるからな。
「隣の芝生は青く見える」ってやつだな。
しかし、うむ。これは出来る範囲の願いだな......。
やるか!確か姉ちゃんそういうのにも詳しかったしな。
そして時は流れ、雪は俺のあげたVTuberモデルをプレゼントした。
そこから、俺の部屋へ自由に入っても良いと許可もした。
いつでも俺の部屋にあるもので遊んで鋭気を養ってくれと、そういう意味で。
しかし、それは――
俺の悪手であったのかもしれない。
いままでの反動かのような雪のオタク化。そしてそれによる人間関係のもつれ。
結局、俺には何も出来なかった。
それからずっと償いを、どうすれば妹を救えるのかを考え続けていた。
その答えは――
今も正しいモノなのかは、わからない。
けれど、そこに可能性を、確かに光を感じたから――
俺は――
◆◇◆◇◆◇
おおわれた月夜。
酔いに微睡む――ハーデンベルギアの香る星空。
俺はまた逃げ出した。
家から、自分から、現実と......妹から。
大切なモノたちから。
この酒の空き缶のように、空っぽな俺。こんどは何で埋めれば良い?
夢も、人も、ひとしく儚くつゆに消える。
俺たちの一生は、短い
俺が妹から奪った時間の大きさ......
どうすれば、埋められる
俺の残りの人生で、まかなえるのか?
こんな様で......
「あの」
......?
――
「――苦労されてるんですね。 妹さんも、あなたも」
「俺が......?」
なぜ......俺の話?
「妹さんの事でそれほど悩まれてるから。 でも、それ、愛情があるからこその悩みなんですよね......心配でどうにかしてあげたい」
......まるで、人の感情が視えているような。こいつは、いったい。
「多分、ちゃんと妹さんに伝わってますよ。 それ」
「......私の気持ちわからないって言われたんですよ?」
「それはそうですよ。 人の気持ちはわからない、けど」
温かな、視線を感じた。こいつの、もつ雰囲気は......なんなんだ?
心の絡まりがほどけていくような......不思議だ。
「――あなたが妹さんを想ってるって事は、しっかり伝わってると思いますよ。 きっと」
こいつなら
妹を......あの苦悩からも、本当の意味で
ならば俺の行く道は
決まった。
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