82.落ちる音 (真城太一 視点)
俺には姉がいた。
彼女は俺の事をとても可愛がってくれていた。
洋服の着替え、ご飯の支度、ともすれば多忙な二人の親よりも俺の面倒を見てくれていたようにも思う。
そしてやがて俺にも同じく守るべき兄妹ができた。
妹の雪。
すくすくと育っていく彼女を、姉が俺にしてくれたように大切に愛情を込めていこうと、そう思った。
それから、俺は妹を守るために、勉学に励み力をつけようと躍起になる。
自分の時間を削り、全てを勉強へとつぎ込み、やがては歴代天才とまで呼ばれるまでの力を得た。
勿論、親は期待した。俺が将来的に姉をこえ、大きな功績を残すことに。
「おにー」
「雪、どーした?」
「おやつ」
ふむ。
「いや、さっき食べただろ~」
「たべた」
「じゃあないだろ~」
指が指差した。その先には俺のおやつが。
「え、これ......俺の」
「おやつ!」
おやつだね、そーだね!......仕方ねえ。
「はい」
「わー、おにーありがとう! んまんま」
可愛いいいいい!!!
こいつは俺が守っていかねば......未来永劫、終末の果てまで!!
日にひに増していく妹愛を感じながら、送る日々。
しかし
俺はある日出会ってしまう
それは――
姉の部屋に侵入し、ゲームをしていた頃
PCに映されていたYouTube。
「......ボーカ......? 歌?」
ゲームは許可を得ていた。お前は息抜きをせねば壊れると言われ、無理やりゲームをさせられた所、見事にハマってしまい時間を見つけては姉の部屋でゲームをしていた。
しかし、PCをいじっていいとは言われていなかった
しかし、そこに表示されていた緑髪の可愛らしい女の子。
なぜかそれが、手を招いているように......みえた。
引き寄せられるようにそれを再生すると、曲が鳴り出した――
気がつけば幾つものそれを、楽器を再生しゲームそっちのけで聴いていた。
「......太一」
「あ......姉ちゃん」
「パソコン、勝手にみんなよ」
ゴスッ
チョップをくらう。
「あでっ......」
「......その曲、好きなん?」
流れているバラード。夕日に涙をこぼしたような、しかし温かみのある曲だった。
「うん、これ好きだな。 すごく心に沁みる」
「そうかそうか。 ちなみにそれ作ったの――」
「うん」
「アタシだからね」
「あー、そうなんだ」
「うん」
「は!!!? 姉ちゃん!!!!?」
「うおっ、うるさっ!! 急に叫ぶんじゃない!!」
衝撃的だった。そして信じられなかった。
俺の姉ちゃんが曲を作り、動画投稿をおこなっていた事が。
知る限りでは、少しのゲームとあとはただひたすらに勉強をしていた姉ちゃんが、動画を作っていたなんて、想像もしなかった。
「ふふん、すげーか?」
「す、すげー! どうやって作ったの!?」
「お、興味あるんか! いよっし、ちょっと作るとこみせてやんよ!」
「うん!」
そこから先はあっという間だった。
中学二年にあがるころには四曲をヒットさせ、家に稼ぎをいれていた。
そのおかげか、成績が少しずつ低下し始めていたが親にはそこまでうるさく言われなかった。
楽器製作にどんどんとのめり込み、気がつけば俺の曲には仲間が集まり、腕のいい配信者と友達になり、さらに仲間を増やし、バンドが結成される。
そこで、俺は音楽で食べていきたいと、そう夢を持つことになった。
大好きな仲間と、大好きな音楽を。
そういった毎日をおくっていると、ある日雪が親に叱られている現場を目撃する事になる。
「もっといい成績を――」
「――こんなんじゃ」
「お兄ちゃんのようになるわよ!」
「......ご、ごめんなさい。 たくさん、もっと頑張ります」
そこには、俺が残してしまった負の残響にあてられる雪がいた。
俺が......こんな風に自由にやってるから、雪にしわ寄せが?
いや、その分金は入れてる!
......入れてるから、俺には何も言えずに雪へとあたるのか?
俺の、せいなのか。
――哀しい顔をする愛しい妹の顔を、俺はかげから静かにみていた。
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