80.コミケ ②
「――それで、あなたがたの作品が欲しいんですけれど......後で並んだ方が良くて?」
「うんにゃ、一樹、そっから渡してやってくれ」
太一が作業をしながら段ボールを指した。
「わかった......はい、どーぞ」
「ん。 ありがとう、では、こちらも......どうぞ」
小説とCDのセットを渡すと、お返しに彼女が今回販売する小説を渡してくれた。
「ありがとう」
「いいえ、こちらこそ......と言うより、あなたがたの小説にはCDなんてついてますのね。 豪華ね」
「あ、それは」
『スタートまでもう間も無くですー! それぞれの場所へ戻ってくださいー!』
アナウンスが会話を妨げた。
「もうこんな時間......では、またあとでね」
「うん、頑張ろう」
「ええ、お互いに」
見送る彼女の背に手を振る。Akinoが通ったあと、すれ違う人達が振り返り、彼女を惚けた顔で見つめていた。
コスプレ姿に驚いてるのもあるだろうけど、きっとその美しさに惹かれているのだろう。
「――一樹! 始まるぞ!」
「あ、うん!」
「頑張るよ~っ! 春音ちゃん!!」
「おー!」
開始の合図と共に大量の人々がなだれ込んでくる。足音が大雨が地を打っているようだ。
ドドドドドと、揺れているかと錯覚してしまう程の光景がそこにはあった。
「――ありがとうございます!」
「――こちらお釣になりますー」
「一人三冊までです!!」
「ありがとうございます――」
「雪、つり銭ない!!」
「はーい!!」
「一樹さん、そろそろ次の箱あけますね!」
「――はい、金見さんありがとう!!」
ま、まるでお祭り騒ぎ......って、わかってはいたけれど、実際の会場は熱気と圧がすごい!!
心なしかお客さんの目が光っているようにも見える!まるで獲物を仕留めんとする猛獣のようだ!
「これ、去年二人でやったってマジ!?」
「うん、マジマジ! 目が回って倒れるかと思ったよ~! あはは」
雪があっけらかんと言う。マジかよ......。
どんどんと在庫がはけていく。この真城兄妹が有名なのか、気がつけば長蛇の列が形成されていた。
え、えぇ。
ここら辺では一番並んでいるようにも見える。この二人、マジで凄かったんだな。
「......――ぜえ、ぜえ、死ぬかと」
「す、凄かったですね......」
俺と金見さんが背中合わせで、へとへとになりながら座っていると、横では二人が軽い反省会みたいなのをしている。
「――うーん、もう少し配置が」
「いや、ポップが――」
全然疲れとるように見えないな。すげー大量......これは、俺が30代のオッサンだからか?
い、いや、仕事で体力はあるはずだ......あ、でも最近忙しかったから。
老いを認めたくない自分と心の中で戦っていると、俺の視界が影でおおわれた。
顔を上げればそこには美しいゴスロリ少女が仁王立ちしていた。
「......ふ」
上から照明の光が落ちているため、Akinoの顔が影になっていてよく見えない。
......ふ?
「......う、あ......な、なかなか、やるわね......」
気のせいか、いや気のせいじゃないな?めっちゃ涙声なんだが。
鼻をすする音がするし。
おもむろにポケットにあったティッシュを手渡してやる。
「......あ、ありがと......ぐすっ」
「大丈夫か? 一体どうした......?」
「どうもこうもないわ! 何なの!? めちゃくちゃ良かったわ! あなた達の作品!!! いい加減にしてよ!!! 号泣してしまったじゃない!!!」
えーーーっ
「えっと、え? ご、ごめん? じゃないか......ありがとうございます?」
「ぶっふぉww おまww 泣きすぎww」
いつのまにか寄ってきた太一が唐突に煽り出した。
「うっさい! 変態!!」
「あははw なまらウケるww」
「お兄ちゃん、なに女の子泣かせてるの!! って、あら?」
「あ、馬鹿(可愛い)弟子......」
馬鹿弟子よばわりされた雪はすぐさまツッコミを入れる。
「いや誰が馬鹿弟子じゃ!! ってか、な、なんで泣いてるんですか、秋乃さん......お兄ちゃんに何か言われましたか?」
「違う......違うの。 あなた達の作品があまりにも良くって......おかげで物販の途中から私使い物にならなかったわよ」
えーーーっ
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