9.オタク(白雪ましろ視点)
白雪ましろ。本名、真城 雪。
私の生まれは北国で、その雪のように白く美しい女性に育ってほしいと込められた名前だ。
ちなみに三人兄妹で、上から姉、兄、妹の私。
そんな私は、小さい頃から母親に厳しく育てられ、美容に勉学、スポーツと習い事を沢山させられた。
幸いなんでも人よりは器用にこなせる方だったので、辛くは無かったが、母親の言うとおりの事ばかりをこなすだけで楽しくも無く、それらをこなす毎日を送っていた。
けれど、それは突然終わりを迎えることになる。中学生にあがったばかりのある日、唐突にお兄ちゃんは嫌がる私を無理やり部屋に連れていったのだ。
「やめて! なんで......ばか兄! やめろ!」
「へへ、良いからくるでござる! 楽しいことしようぜぇ!?」
お兄ちゃんは昔から何でも出来た。秀才と呼ばれ、勉強もかなり出来、お兄ちゃんもまた私と同様親から期待されていた。
けれど、ある日お兄ちゃんは変わってしまう。それからというもの、両親には兄には近づくなと言われ、お姉ちゃんはお兄ちゃんの事を聞くと、とても凄い表情になるようになった。
「理由を! 理由をいえ!!」
「良いからこいっ!」
精一杯の抵抗虚しく、私はお兄ちゃんの部屋へ連れ込まれその扉の鍵を閉められてしまう。
「......あ」
「もう、わかってんだろ? 雪、お前......」
「え、な、なに......」
PCを指差すお兄ちゃん。そこに映っていたのは、白髪の猫耳少女だった。おめめがとろんとしている。可愛い......って、え?だから何?
「今から雪にはこの子に命を吹き込んで貰います」
「命を......何だって?」
「だから、お前がましろちゃんの声をするんだよ!」
「え? 意味わかんないんですけど」
「まあまあ、とりあえずこれをつけてーっと」
頭に「?」を浮かべている隙に、ヘッドフォンを取り付けられた。
「ちょっと!」
『ちょっと!』
おおお!?画面の猫耳少女が喋ってる!?
「うおおおおおお!! ましろがしゃべったあああああ!!!」
『うるっさ!!!』
「いやー、やっぱり雪の声はあうと思ったんだよなぁ」
『いや、人の話をきけ』
「ん、なんだ? せっかくお前の好みに作ってやったんだぞ。 コンプレックスだって言ってたつり目も、とろんとした感じの柔らかな目にした......あと何かあったか?」
え、あ!そっか、前にお兄ちゃんの部屋でアニメを見せてもらって......その時言ったの思い出した!私もこんな猫耳の女の子になりたいって。
覚えててくれたんだ......。
『......思い出した。 あ、ありがとう、お兄ちゃん』
「ぎゃああああああ!!!! 萌ええええええええ!!!!」
いや、うるさい!けど、これ......凄いな。私の動きと画面のましろちゃんが同じ動きをしている。
「どうだ、気に入ったか?」
『ま、まあね。 可愛いね、うん』
「うむうむ。 ならばその子はお前にやるよ。 俺の部屋に入って勝手に遊ぶが良い」
『え!?』
「お前の為に用意したようなものだからな。 ......なんだ、習い事ばかりで疲れてるだろ。 息抜きにでもしたら良いさ。 なんなら他のアニメやゲームもして良いぞ」
ぐぐぐぐ、お兄ちゃん。両親は常にお兄ちゃんの事を引きニートだの穀潰しだのボロクソに言っているけれど、私は知っている。実は色んなものが見えていて、とても優しい人なんだと言うことを。
まあ、だからお兄ちゃんは引きこもりになってしまったのかもしれないけど......。
『うん......わかったよ、お兄ちゃん。 本当にありがとうね』
「萌ええええええええあああああばばばばば!!!!!」
『もうええっちゅうねん』
それから私はお兄ちゃんの部屋を両親に気がつかれないよう、遊びに行っていた。アニメ、ゲームを黙々と楽しみ、お兄ちゃんが「あ、そろそろ俺もゲームしたい」と言っても無視してやり続けた。
しかし最も私の興味をひいたのは、ボカロだった。元々ピアノを習っていたのもあり、作曲して歌詞を書きミクちゃんに歌ってもらう事が楽しくてしょうがなくなった。
そこらへんからおそらく私の人生は変わった。
習い事をすっぽかし、お兄ちゃんの部屋で作曲。アニメ観賞、ゲーム、VTuberごっことやりたい放題。
「雪、お前......大丈夫か?」
「ん、何が? てかお兄ちゃん、右から敵きてるよ!」
「あ、はいすみません!」
真剣な眼差しでライフルの音を響かせる私は、いつしか立派なオタクになっていた。
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