77.ゆきどけのはる (金見春音 視点)
初めて彼女を見たとき、どっかのモデルさんかな?と思った。
これは大袈裟ではなくて、美しい黒髪、綺麗な瞳と少し上がっている目尻、すらりとスカートから伸びる綺麗な脚。
誰がどうみても美しいと言うであろう彼女
名前は真城 雪。
最初は妹さんかなとも思ったが、後に思えばそれは防衛本能のそれだったのかもしれない。
「彼女」である可能性を見ないふりした。そして、どこかでその可能性を感じていたから......あの場を、適当な理由をつけ、離れたのだ。
しかし、それこそが悪手だった。
帰ったあとに待っていたのは、次々と押し寄せる不安の波。そして孤独感。
今も二人で笑いあっているのかな、と考えた所で気がついた。
もしかしたら、あの人は彼の彼女なのかもしれない、と。
だったら、敵わないし......叶わない
そう――思った。
「どこか......喫茶店に入りましょうか?」
私が言うと、彼女は首を横へふった。
「家、来てもらえませんか」
あの日みた弱々しさの欠片もない瞳で私を見据える。
「わかりました」
あしもとがふわふわする。夢見心地とはこの事か?
「それじゃあ、行きましょうか」
両手をパシンと合わせるその挙動ひとつとっても可愛らしい。
はいてる赤い手袋は彼のプレゼントだったりするのかな?なんて妄想の域の想像をしてしまう。
真城さんの家にやってきた。
この高級マンションは何度か配達で来たことがあって、どんな人が住んでるのかな。なんて考えたことが何回もあるけど、真城さんが住んでいたとは......。
お兄さんと住んでいるらしいけど、むしろ兄妹でこんな所に住めるのかと驚いた。
部屋に入ると、お兄さんと思われる人がリビングで珈琲を飲んでいた。
「――ん、おお、あなたが......初めまして、真城の兄、真城 太一です」
「あ、は、初めまして」
なんだか葉月さんに雰囲気が似ている。
「お兄ちゃん、部屋いって!」
「うむ、了解でござる」
......ござる?
「よし、それじゃあ......これが作品です」
目の前へと出されたそれは一冊の小説。
タイトルは......「孤独な私の悪役令嬢」
葉月さんが書いたんだよね?......なろう作家である葉月さんの作品、「ラストファンタジア」は短いタイトルだ。
しかしそれは本来、なろうではうけにくい......それは葉月さんも痛いほどに理解しているはず。
それこそ私以上に、その身体へと刻み込まれているだろう。
なのに......短いタイトルにした意味は?これでは、なろうでは読まれない。
ふと葉月さんと目が合う。
にこりと笑う彼の表情は柔らかく見えた。
促されるまま、小説の一ページをを開き読み始めた。
話の内容は、現代版の悪役令嬢モノで、妹に恋人を奪われる姉の話。
けれど、それはなろうにある奪われ奪う憎しみに満ちたものではなく、妹ともと恋人の純愛をみて、違う道を歩み出す姉の物語だった。
だから、「孤独な私の悪役令嬢」......?
文字数は五千くらいか。体感的に、あっという間に終わってしまった。
パタンと小説を閉じた。
確かに、素敵なお話だった
少ない文字数の中で、綺麗に纏められていて、妹の姉への想いともと婚約者の気持ちや葛藤が描かれていた。
正直、感動した......それもこれも、おそらくはこの主人公である姉が私のことをあらわしていたから。
心は、動いた......動かされてしまった。けれど、でも......
「私は......」
答えを出そうとしたとき、葉月さんがそれを遮るように言葉を挟んだ。
「金見さん、ここまでが俺の力......俺だけの力だ」
「......どういう」
「俺は、俺の作品であるラストファンタジアがヒットしたのは......俺だけの力じゃないんだ。 雪がいたから......だから」
そう言い、彼から出されたのはイヤホン。
真城さんが、まっすぐと私の目を見つめる。
なにかを伝えようと、まっすぐに見つめてくる。
私はイヤホンをつける。
そこから流れ出した、悲しくも優しいBGM。
そして、真城さんのナレーション。
綺麗な声にのせられたそれは、さっき読んだ小説の一文だ。
人の声がつくだけで、印象が全然変わる。いや、真城さんの声だから?
なにか、人を引き込むような......魅力がある。すごい......目を閉じているのに、彩のついた美しい世界が広がる。
『私、それでも......好きなの』
声にこれ程の力があるのかと、驚く。
『お姉ちゃん......大好きだよ』
私に向けられた言葉。
接していた時は余りに短かったけれど、あの時間、確かに感じた思いが呼び起こされる。
この真城と仲良くなりたいな、と。
それは彼女も同じだった。
それが、この台詞達に現れていた。
これを、この台詞を書いたのは、きっと真城さんだ。
『私は......お姉ちゃんとも、離れたくないよ』
――手に何かが落ちた。
ポタ
ポタ
それは頬を伝う涙だった。
流れるBGMは緩やかに時を刻み、物語の終わりへ導き、彼女の言葉でそれを迎えた。
ああ。
私も、真城さんと葉月さんと
離れたくないよ――
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