76.決まりきったゲーム
コミケの作品が完成した。
太一のツテを使い、ギリギリ中のギリギリで完成させた小説とCDのセット。
原稿が完成し、CDも収録が終わった瞬間の太一の動きは、凄まじくてマジでギリギリだったんだな、と、そこで再認識した。
「あぶねえ、マジでヤバかったでござるな......」
「本当にね......」
「うん、終わったかと思った(締め切り的に)」
三人がげっそりとした顔で互いに見合う。
「太一、本当にありがとう......俺が遅くなったから。 ごめん」
「うんにゃ、それもこれも良いものを作るためでござろう......現に一樹は良いものを作った」
「そうそう、間に合ったしね! ありがとう、お兄ちゃん!」
「ありがとう、太一!」
「はっはっは!」
太一は高笑いしながら少し照れているようだった。はん、可愛いやつめ。
「ところで、いつ例の子には作品を渡すんだ? 一応完成原稿のコピーとCDはあるでござろう」
「あ、そっか」
「いつ......」
コミケ当日に完成品を取り置きする予定だったけど、確かにもう渡せる状態のものはある。雪はどう思ってるんだろう......。
これを渡せば決着がつく。その覚悟はもう固まっているのかどうか......金見さんは、どう考えているんだろう。
「私、作品が完成したことを金見さんに伝えてみるよ。 それで渡すかどうか決める」
「成る程、その方がいいでござるな」
「......」
彼女はとても真剣な目をしていた。俺が見つめている事に気がつくと、ふわりと微笑んだ。
「大丈夫、かならず勝てるよ」
俺たちは確かに最高のものを作った。アイデアを幾つも出し、何度も何度も相談し、納得のいくものを作り上げた。
けれど、それは俺たちが考えうる最高の作品。
作り手と、読み手では求めるモノが違う。
果たしてこの作品が金見さんの心を、想いを揺らすことが出来るのか......それは金見さんにしかわからない。
そして、彼女の気持ちを動かせたとしても、何も感じないと言われてしまえばそれで負けだ。
この勝負は金見さんが圧倒的に有利なんだ。
雪は......それでも勝てると、そう思っている。
互いの力を合わせれば、人の心を変えられると。
「......雪」
俺は彼女をみて静かに頷いた。
◆◇◆◇◆◇
12/27
公園での待ち合わせ。
もう少しで予定の時間......真城さんがくる。
見上げた空には、ゆっくりと動く雲。
澄んだ青に、それを映すかのような心。なぜか晴々としている気持ちに自分でも不思議だった。
今日、勝負の決着がつくというのに。
昨日の夜、真城さんから作品が完成したと連絡が入った。
ついにこの時が来たのだな、と、私は思い......胸が締め付けられ、それまでは意識していなかった恐怖がじわりと滲み出たのを感じた。
電話口の彼女の声は、やはり震えていた。
同じ思いなのだろう。
大切なものを失うかもしれない、その恐怖は天秤で傾くことのない、平等なものになる。
可能性が少しでもあれば、恐怖の重さは同じなのだ。
けれど
ごめんなさい。
どんな作品をだされ、この心、想いが揺らごうとも
私は負けない
だって、もう
私の答えは、最初から決まっているんだから。
それで私が背負うモノも苦しむ事も、もう覚悟は出来ている。
だから、これは始まりで終わり。
......ありがとう、私を受け入れてくれて。
私は絶対に、失いたくない。
だから、この痛みを受け入れて......歩きだす。
「――おはようございます」
「おはようございます、真城さん......」
あ
......まあ、それはそうか。
「と、葉月さん」
「おはよう、ございます」
三人が揃った。
役者が揃うとはこの事で、私にとっては予定調和。
ひとつの工程が無くなったようなもので、彼がこの場にいるのは都合が良い。
勝負の結果を知らせる手間がなくなって。
葉月さんの瞳が心なしか燃えているように見える。
こんなに真剣な眼差しは初めて見た気がする。
ああ......やっぱり、カッコいいな。
葉月 一樹は。
「......勝負を、始めましょう」
終わりへの一本道。
結末の決まっている、ゲームが始まる。
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