73.繁忙期
あれから数日、俺はコミケの作品作りと、繁忙期の本業で目の回るような日々をおくっていた。
「ここ、このセリフいれたらどうかな......一樹はどう思う?」
「あー、でも、それならこっちの話を先にしたら?」
「んあ。 ちなみに、メインのシーン、BGMは派手にした方がいいでござるか?」
「あー......どうしよう」
今は一応の完成をみた小説部分を二人に見てもらっている。
声を入れる雪と、BGM担当の太一の意見を取り入れつつ、最後の改稿にはいっていた。
「しかし、まさかのジャンルでござるな......」
「けど、これの方がお兄ちゃんも楽しいでしょ?」
「まあ、確かに。 けど、一樹はだいぶ苦しんだのでは」
「あはは......まあ、でもこれが一番いいもの出来そうだからね」
「しかし、雪から聞いたけど、例の勝負......勝てるのか?」
例の勝負とは、金見さんとの勝負の事。
太一と雪、そして俺の共同作品であるため、当然太一にもその事情を話した。
最初こそ、「モテモテやなw」とか「リア充爆発しろやww」とかからかってきたけど、雪に頭をさげられお願いされて、ガチモードでの全力を誓っていた。
やっぱり雪の事、大好きなんやな。シスコンどこいった?と思っていたけど、ちゃんとシスコンだった。安心した。
ていうか、今さらだけど太一って凄い人なんだよな。
彼の所属するバンドはYouTuberであり、定期的にライブを配信している。
その配信を視聴しにくる人々は恐ろしく多く、数十万人にものぼる。これは、雪の配信でも届かないレベルだ。
ちなみに雪の登録者は今現在、215万人。太一のバンドは425万人。ガチの化物YouTuberだ。
この人が味方で本当、良かった......。
「勝つよ。 絶対に! ね、一樹」
隣の雪が見つめてくる。
「うん、必ず......きっと」
「きぃいいいー! 兄の前で、堂々といちゃついてんじゃないわよ!!」
そう言いながら、太一がハンカチを噛んでいた。
それから、更に数日後。
12月24日
「......た、ただ......いま、です」
配達車からよろよろと降りる。
「......おつ」
「おつかれさまぁ......」
「おつ、かれ......」
クリスマスプレゼントと言う名の荷物を配達し終えやっとの思いで、職場へと帰って来た。
ちょうど他の配達員も戻ってきていたようで、互いに労う。
この日、そして25日は物量が多く、流石に皆残業になるようで帰っても一人ぼっちと言うことはない。
まあ、最近は金見さんがまっていてくれることが多々あったのだけれど。
「葉月さん、終わりましたか?」
女性配達員が、ふらふらと近寄ってきた。その手には缶コーヒーが。
「これ、どうぞ」
「え」
「お客様に、いただいたものなんですけど......2本いただいたので、良ければ」
「......いいんですか?」
「勿論です。 ......いつも色々としてもらってましたからね。 あ、これで全て帳消しとかにはしませんけどね! と、とにかく、どうぞ」
色々......ああ、トイレットペーパーの買い出しとかのことか?
「では、遠慮なく。 ごちそう様です」
「はいっ!」
この人とはあまり話をしたことがない。仕事を押し付けられて、あげく罵倒された経験もある。
だからこちらからは接触しないようにしていた。
でも、いまの一言。
色々、帳消しにしない。
誰かが俺のしてきたことを伝えているんだ。
思い当たる人なんて、一人しかいない。
まただ......また、俺は
彼女の優しさで胸が痛むのは、見ないふりをしていた罰なのだろう。
笑顔を思いだし、悲しい顔を思いだし、絶対になくしたくないと改めて思った。
それが俺と雪のエゴで、彼女にとって望むモノでないとしても......傲慢にも思える選択だとしても......
こんな俺にできた、親友ともいえる存在を失いたくない。
だから、あがく......あがいてみせる。
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