72.闘志
雪は金見さんが好きだ。
これまでずっと友達もできずにいた雪は、金見さんという存在を必要としている。そんな気がする......。
二人の間にあるもの、それは俺には正確にはかることは出来ないけれど、あの人見知りの雪がすぐに打ち解けられたのは、雪自身が金見さんと友達になりたいと、そう強く願ったからだと思う。
そして多分、金見さんも......あの時言っていた言葉は金見さんの本心だ。俺はそう思う。
だから、俺は......二人のために、この、今まで培った力を使う。
きっとこの力はこの為に、人の心を動かすためにみがいてきた力なんだと思うから。
「もしもし......雪」
『もしもし』
「話、金見さんから聞いたよ。 コミケの作品で決着をつけるって」
『......ごめん、言うの遅くて。 いろいろ考えて、そうした』
「いいよ。 それで、作品の話なんだけど」
『うん』
「幼なじみものじゃ負けると思うんだ」
『うん......私もそう思った』
「もっと雪の気持ちをぶつけられる、想いの込められる話にしたい......」
『うん......ありがとう、私もそうしたい』
「良かった。 これはあとで太一とも相談しないといけないけど、ジャンル......悪役令嬢か姉妹ものにしたいんだ」
『悪役令嬢、か、姉妹......? 悪役令嬢はわかるけど、姉妹ってなに?』
「えっと、それは、姉妹の絆を題材にしたもので......物語性は薄れてしまうかもなんだけど」
『姉妹の絆......それって、私と金見さん?』
「そう。 でも......言っておいてあれなんだけど、物語として弱いのは致命的だよね。 雪は何かある? これなら気持ち込められる!ってやつ」
『......気持ちを、込められる......姉妹、悪役令嬢......なにか』
雪が思考を巡らせている。ジャンル選びは作品の基盤。ここを間違えれば勝負どころではなくなる......これはもうただのコミケに出す作品ではないんだ。
雪にとって、金見さんにとって、俺にとっても......大切な、作品になる。
太一......俺らの作品で勝手になんか始めてしまってすまん。
『ねえ、こう言うのはどうかな?』
「ん、どういうの?」
『えっとね――』
◆◇◆◇◆◇
「――ぶぇっくしょんッ」
んあ、風邪か?
この時期に風邪はあかんぞ。コミケが迫ってんだからな。
しかし、最近は本当にさみいな......あ、鍋食べたい。
「なあ、鍋食わねえ?」
少し前を歩く、小柄な赤いコートを着た少女へ声をかける。
「鍋? なぜ私があなたと鍋をつつかなければならないんですの?」
おう辛辣ウー!
「――チゲ鍋にしましょう。 今予約しますわ」
いや、食うんかい!!
「予約完了」
「あ、ありがとう......つーか、もうそろそろ解放してくんない?」
「何をいっているの? あなたが持ち掛けた話じゃない。 責任持って付き合ってもらいますわ」
「ううむ......」
今俺はこの銀髪(地毛)の美少女、神木 秋乃と昼の町を練り歩いている。
こんなJKに引きずりまわされて何をしているのかって?秋乃いわく取材だそうだ......。
この間、妹である雪にイラストを指南して貰った対価として、こいつには曲を作ってやるという約束をした。
その一貫として付き合わされているのだが、実のところ具体的な話を聞かされてはいない。
「いい加減教えてほしいんでござるが、なぜ拙者をつれまわすのだ?」
「ふん。 そんなの決まっているのだわ......変態、これは実戦訓練よ。 よりリアルな体験は作品へと活かされ、至高へと至るの......つまり、そのためのモノよこれは!」
あ、はい。......つまり、デートの練習っつーことか。いや、拙者じゃなけりゃ翻訳でないでござるな、これ。
あれ、じゃあ拙者、曲作りと別件で付き合わされてるのこれ?
まあ、いいか。こいつには色々世話になってるしな。
「お前......次の作品、書いてるのか?」
「ええ。 書いてるわ」
「得意の悪役令嬢、か?」
「そうね。 けれど、今度のは一味違うわ......」
にやりと笑う秋乃。うーむ、銀髪だからか美人だからか、行き交う人達からの視線が凄い。
「ほう、自信ありげだな?」
「ええ、当然よ! 最高の作品を書き上げて見せるのだわ! そしてこの作品で......」
? この作品で?
「noranukoを討つわ!!!」
そう言った彼女は腰に手をあて、もう片方の手でピースをつくりその隙間から可愛らしいお目めを覗かせていた。まあ、ようするに中二的なポーズをどや顔でとっていて、より通行人の視線が痛いので勘弁してもらって良いですか、お願いします。
どうやら彼女はコミケの先、新作の小説で一樹を倒す気だったようだ。
けれど......
好都合、だな。
「――だったら、こういうのはどうだ?」
「? なんですの?」
俺が、もっと面白くしてやる。
【とても大切なお知らせ】
少しでも面白い、先が気になる!続きが読みたい!と思って頂けたら、広告の下にある☆☆☆☆☆から評価をしていただけると、励みになり執筆へのやる気につながります!
ブックマークも大変嬉しいので、よければお願いします!
いつも読んでくれてありがとうございます!嬉しいです!_(._.)_




