69.二つの光
「......でも、私、この想いはとめられないです」
金見さんが、そう言った。
窓につたう雨粒が、同じ場所へと行き着くように......今思えば、これは必然だったのだろう。
俺は何も言えずに、真っ直ぐに――
「葉月さんっ......私は、あなたの事が、す、好きです!」
彼女の想いを聞いた。
けれど、俺にはそれを受け取る事はできない。けれど、俺が俺で在ることを許してくれたのは、彼女だ。
まだ太った体で、髪もぼさぼさに伸ばしっぱなしだったころの俺を、俺として存在させてくれた。
そうだ......
ずっと、ずっと支えられて生きてきた。
「金見さん......今の俺があるのは、金見さんのおかげです。 それは、間違いない......でも、それでも」
それでも、俺は――
「待って!」
金見さんが叫んだ。
「私は、私は......」
ぽろぽろとあふれだす、涙と言葉に心が焼けつく。
「......葉月さんのこと......好き、なんだもん」
まるで金縛りにでもあったかのように
声も出せず、動けもせず、ただ彼女を画面の向こうから観ている映画のような、物語の行方が決まるのを待っているような......不思議な感覚に陥っていた。
――心が、現状を受け入れられない。
なぜなら、金見さんもまた、大切な人の一人だったのだから。
◆◇◆◇◆◇
――どこかで、私は彼と幸せになれるのだと思っていた。
ゆくゆくは、交際に発展して......デートや旅行を、幸せの時間を沢山重ねて、けれどけんかもいっぱいして、そうやって絆を深めて、そして結婚。
そんな淡く浅い妄想を広げていた。
頭お花畑だなんて、ひどい言葉がこれ程ぴったりな奴は他に居ないだろう。
けれど、嫌だ......ここまでの彼との時間は
会話を思い返し、どうしようもなく胸のときめいた、彼との時間は
終わらせたくない。
あの温もりも、喜びも、幸せも。
ここで終わらせてしまうのは、絶対に嫌だ。
「――わかりました。 葉月さん......」
目元を袖で拭う。ああ、ぐちゃぐちゃな顔してんだろうな、私。
「私は、葉月さんを諦められません」
「......俺は、でも」
「勝負しましょう」
「勝負......?」
「私のこの想いの強さで、どれだけ葉月さんを好きか示して見せます......」
最悪な女だ。これは、略奪。これから私がおこそうとしているのは、出来上がった幸せな物語を、無理やり根底から書き直させる行為。
けれど、私は今や外野でもなければ観客でもない、傍観者でもいられない。
これは私の物語でもあるのだから
だから
だから、私は――戦う。悪役になろうと、私は私の為に戦う。
「真城さんとの戦いに勝ったら、私との事を考えてください!」
す、すごい困らせてる......。
私が泣いたから?葉月さんがさっきからうんともすんとも言ってくれない。
きっと優しい葉月さんだから......私の気持ちを考えて何も言えなくなってるんだ。
ああ......自己嫌悪に飲まれそう。泥のように絡み付く黒いもの。
でも、けれど、私は葉月さんをとられたくない。このまま何もせずに終わるのは嫌だ......!
「......私、真城さんと話します」
とにかく、これは私と真城さんの問題でもある。あの日......私は怖くて逃げてしまったけど、でも今度は向き合う。
「ごめんなさい、今日はこれで......失礼します。 お疲れ様でした」
「......」
一人歩く夜道に、寂しさがわきたつ。
葉月さんと一緒に帰るこの道が私は好きになっていた。
好きな食べ物、嫌いな食べ物、趣味、いろんなものを教えてもらいながら、二人並んだ帰り道。
その記憶が、愛しい彼の笑顔が......甦る。
私は、真城さんの事も好きだ。
けれど、これは......この人だけは譲りたくない。
私の、ずっと一緒にいたい人。
葉月 一樹だけは。
「――もしもし、真城さん」
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