65.陰キャデブな社畜、知らぬ間に美少女VTuberを救う。
「私さ、引きこもりだったの」
......。
「お兄ちゃんから聞いてるかもしれないけど、高校生の時に......人間関係で引きこもりになったんだ。 まあ、もとはといえば私が悪いんだけどね」
「そうなの?」
反射的に口をついた言葉に焦った。ここでこの問いかけはやらしい、そう思ったから。
「うん、そうだよ。 私さ、その時はアニメやゲーム、ボカロとかにのめり込んでいて人付き合いなんて全然きにしてなかったんだ」
太一が言ってたオタク趣味。......引きこもりにさせ、人生を狂わせた、とも言ってたっけ。
「......だから、まわりが全然見えてなくて......人を傷つけたり、した」
雪は当時の事を思い出しているのか、険しい顔でうつ向いていた。
引きこもるって言うのは多分、聞く以上に苦しく辛いことなんだろうな。
その精神的負荷は計り知れない......と、思う。だって、親からの目、友達からの目、世間からの目、一度引きこもりという精神防衛をしただけで、問題のある人間とされ扱われる。
例えその人に非がなくとも。
多分、雪もそうなんだと思う。これだけ多くの人に愛される雪が、人を好き好んで傷つけたりするような人間じゃない。
俺は勝手ながらそう思った。だから俺は――
「雪は悪くないよ」
深く聞けば傷つけてしまうかもしれない。だから、一言だけそう言った。
「......ふふ、ありがとう」
苦笑いをする雪に、俺も笑い返す。
「まあー、そんなわけでね。 私はお家で引きこもりしてたわけですよ......お恥ずかしながら」
「恥ずかしくないよ......」
恥ずかしくなんかない。誰だってきっかけ一つでそうなる可能性があるし、紙一重だと思う。
俺だって......。
「うん。 でもね、そんなどうしようもなく落ち込んだ生活の中で、ある小説にであったの」
「小説......?」
「そう、小説。 なろうの小説だったんだけど......その小説はね、作者さんがまだあまり小説を書いたことがなかったのか、そこまでお上手ではなくて、誤字脱字だらけ、話はあっちいったりこっちいったり......どういうお話が書きたいのかもあやふやだったんだ。 だから感想もブックマークも全然なかった」
俺も、最初はプロットや構成なんて気にもせず、思い付いたアイデアを頼りに書き始めたっけ......懐かしいな。
「あー、まあ、小説家はじめたてなら......」
「うん。 でもさ、その人、凄かったんだよね。 その後も作品を出すんだけどさ、どんどん上手くなってくんだよ」
「ああ、凄く頑張ったんだね」
一生懸命な人は好きだな。頑張ってる姿って、文書にもあらわれるから......苦しみ悩み、もがきながら出したそれが、美しい物語になる。
「ね、頑張りが見えるんよ。 それでね、その人の小説を読んでて思ったんだ......私、このままで良いのかなって」
そうか......それが、雪をかえたのか。
「この作者さんの書く作品に勇気たくさんもらったんだよね、私。 ......その物語の主人公に立ち上がらせて貰えたんだよ。 それで私はこの場所に、VTuberとしての白雪 ましろとして居る事ができるんだ」
「なるほど、ちなみに......その作者って?」
いったい誰だ......?雪にそれほどの影響をあたえた作家。
つまり、雪が好きな作家であり、好みの作品であるということでもある。
......今後の参考にしよう。
「ふっふっふ」
「......?」
「ヒント、とっても努力家です!」
な、なんか始まった!?
努力家......って、物書きで努力家じゃない人はいないと思うしなぁ。てか、がんばり屋さんてさっきも言ってたし、ヒントにならないような。
これはわからん。
「えっと、もっとヒントください! それじゃわからなすぎる!」
「おっけー! ヒント2、なろうでハイファンタジーを書いています!」
ハイファンタジー......これまたヒントにならないな。さては正解させるきがないのか?
うーむ、雪の意図がわからない。
「雪、もっとちゃんとしたヒントちょうだいよ」
「にひひ、良いよ~!」
こ、こいつ、なんか知らんが楽しんで――
雪は人差し指を立てた。
それを、ゆっくりとこちらへ向けた。
「――ヒント3」
「今、私の目の前に居ます」
――え。
「あの時、助けてくれてありがとう......一樹」
あ......そうか、俺の作品......。
PVがあれば、それだけ人の目に触れている可能性がある。
それは、もしかしたら、誰かの希望になっていたり
毎日の楽しみになっていたり
頑張ろうという気力に、なにかに挑戦しようという勇気になっていたりするかもしれない
いまこの時まではそう思っていた。
かもしれない......可能性
けれど、可能性ではなくなった。
今、目の前にいる彼女は、確かにあの頃の俺に助けられたと言った。
そうか......俺は、こんな何もない、何の意味もない惨めで暗い人生だと思っていた、俺だったけど
違ったんだ
陰キャデブな社畜だった俺は
どうやら、知らぬ間にこの美少女VTuberを救っていたらしい。
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