64.告白
あの日、俺は初めて真城 雪に会った。
以前にもコンビニであっているから正しくは初めてではないけれど、「真城 雪」に会ったのは、この時が初めてだ。
突然の出合い。もしかすると、必然の出合いなのかもしれない。
彼女は必死に兄の行方をさがし、夜の町をさまよっていた。輝く街灯の咲く夜道には光はあれど、先は見えない。
その道が望む答えにたどり着ける確証もなく、歩くか引き返すかは自分次第。
彼女はいくつものそれを越えてきた。そしてまたあの時も、そうやってたどり着いたのだろう。
「――俺は、あの時」
唇が乾く音が聞こえた気がした。
「......あの時......えっと」
頭のなかが突然真っ白になる。伝えたいことは整理していたのに......結果ばかりちらつく。恐怖が言葉をかきけしていく。
しかし、雪は真剣な眼差しでこちらをみつめる。
言葉を待ってくれている。急かさずに。
「その、俺は......こ、怖かったんだ」
醜いその体、冴えない人柄。
誰もが俺を見て陰で嘲笑う。
そんな妄想にとりつかれ、無駄に日々を浪費し続ける。
それがあの時の俺だった。
「俺は、自分に......自信がなかった。 あんな、陰鬱で、太っていて、社畜といっても間違いではない......そんな俺がリアルで雪と会えば、きっと嫌われる......幻滅される、そう思ったんだ」
昔からそうだった。
人の顔色ばかり見て、空気を読む。あげく自分の言葉を封じ込め、あいつは何を考えているのかわからないと言われる。
『――陰キャってやつだよな、あれは』
そして、大きな流れのなかで溺れるように、それでも必死に流され生きてきた俺。
ときどき見つけた希望という岩はしがみつくには遠く、小さすぎて手を伸ばしてもかすりもしない。
やがて軽視されはじめ、俺という存在にどうして存在しているのか自分でもわからなくなる。
自暴自棄、嫌になる毎日を食で塗り潰し、ストレスを潰す。
しかし、心に空いた穴は埋まらない。埋めるように暴食を繰り返し、ついにはふくよかボディの完成に至った。
仕事も誇れるものではなく、他をみたことがないから程度はわからないが、ブラックなのは明白。
いや、俺にだけ仕事が集中してただけで他の人からみればブラックでもなんでもないのかもしれない。
なんというソロプレイヤー。
そんな「陰キャデブな社畜」は、誰にも好かれるわけない。そう思っていた。
「......だから、雪に嫌われるのが怖かった。 それが、理由」
嫌われるのが怖かったという理由を話すだけで、寿命を削るような精神的疲労が襲う。
ホントに俺は......チキン過ぎるな。
「そっか......うん、わかった」
腕組をした雪が、うんうんと頷く。
「でも、私、それでも一樹の事嫌ったりしなかったよ」
「そ、そうかな......」
「私は一樹にたくさん助けられてるからさ......どんな人かしってるもん」
「......え、陰キャデブ社畜だって、通話で察していたって事?」
「あはは、違うよ。 そうじゃなくてさ」
なんか爆笑されてる......何かおかしいこと言ったか?
「一樹が優しい人って事。 ......あの時だって、私って知らないのにコンビニでも助けてくれたでしょ」
「......そんなのたまたまで」
「私、あのコンビニ結構いくんだよね。 前にも見た事あるんだ......一樹が仕事で忙しいのに、お婆ちゃんの荷物をもってあげてた所」
あ、あったな、そんな事。結構前の話だけど......そんときから雪は俺を覚えていてくれたのか。
「小説でだって、一樹は感想ひとつひとつに、お礼の返信してるし......めちゃくちゃ多いのに。 仕事も執筆も忙しいのにさ」
......。
「私、ずっと前から知ってるんだよ」
「ずっと前から......?」
「ずっとあなたの小説読んできたからね。 知ってる? あなたの小説に一番最初に感想書いたの、私なんだよ?」
え......え!?
「あ、え......嘘、まじ、で?」
雪はにんまりと、いつものように悪戯な笑みを浮かべている。
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