7.出会い
「......」
思わずその名前を見て無言になる。そりゃダイレクトメール送ったんだから返事はくるだろ。くるんだけど、ちょっと怖い。ありえないとは思うけど、調子のんなよ底辺作家が!とか書かれていたらどうしよう。
こういう時、俺はどうしようもなくネガティブになってしまう。けどそれは仕方ないと思う。なにせ、昨日はじめて白雪ましろさんの事知ったばかりなんだから。まだどんな人かもわからんし。
......でもあの朗読を視る限りではそんな人には思えないんだよな。あれは人の気持ちをしっかり理解しているからこそ出来る表現の朗読だと思う。
心をくすぐるような愛らしい声は、ふんわりと花の香りに包まれたかのような心地よさだったし、しっかりとした腹式呼吸から発せられる迫力ある台詞はまるで別人のようだった。
......別の意味でも緊張してきた。あんな凄いひとからのメッセージなんだよな。
震える手を見つめながら、リビングをうろうろと歩き回る。画面に映るのは白雪ましろのメッセージ通知。気になる、けど怖い。ふらふらとそこらじゅうを歩き回っていると、椅子の脚に足がぶつかった。
「痛ったい!!!?」
小指が折れたかと思うような痛みに、歩きスマホダメ絶対!と誓ったその時、椅子にぶつかった拍子に白雪ましろさんのメッセージが開かれていた事に気がついた。
「......あ」
そこに書かれていた文書。それは予想外の物だった。
『ごめんなさい!! ごめんなさい、ごめんなさい、本当にごめんなさい!!』
おおお!?
初手平謝りの白雪さんの謝罪に何事かと目を見開く。
『勝手に朗読してごめんなさい!! 先にお聞きするべきでした!! わかってたんです、でも忘れてしまってて......本当、失礼ですよね、ごめんなさい!! 今度あらためて謝罪します!! 動画......謝罪動画あげますので許してください!!』
な、え!?謝罪動画!?
あ、そ、そうか。冷静に思い返したら確かに何も言われてないな。言われるまで気がつかなかった......けれどそんな事はぶっちゃけどうでも良いんだよな。だって、俺には全てにおいてプラスにしかなってないし。
俺は目を閉じ、朗読動画を思い浮かべ頷いた。
そうだよ。何よりあげられていた朗読動画で俺の作品、ラストファンタジアを物凄く愛してくれてるのがわかる。「なろう」の端の端、片隅で書き連ねた俺の冒険小説。それをあそこまで熱意を込めて動画にしてくれたのだ。感謝しかない。
......謝罪動画、本当に出されたら困るな。
『あの、メッセージはお読みになりましたか? 俺はあなたに感謝してるんですよ! あんなに素晴らしい動画を作っていただいて、とても嬉しいです!』
いや、そうだよ。大体この人俺の送ったメッセージ見てないよね?だってそんなクレーム的な事は一言も書いてないし。
多分、作者の俺の名前だけをみて無断使用に怒って連絡してきたと勘違いしたんだろうな......とにかく「誠意を見せて謝罪しなければ」の気持ちが伝わってきた。
「......誤解、とけたかな?」
ふう、と深呼吸したとき、スマホが震えメッセージが来たことを知らせる。はやっ!
『すみません!! なんだかひとりでテンパってしまって、変なメッセージを送ってしまい、本当に申し訳ありませんでした。 こちらこそ、感謝しています! 素敵な物語を読ませていただいていて、ありがとうございます!』
あ、誤解とけたみたいだな、良かった。そんで、この感じを見るに許可とるの忘れてたのは本当だろうな。そんな事を考えながら、メッセージの続きを見た。
『でも、勝手に作品をお借りしてしまったのも事実です。 もし、よろしければ、私と通話して頂けませんか? 今日の夜にnoranukoさんに空いているお時間があれば!謝らせてください!!』
「え!!?」
時間は......えーと、うん、はっきり言えば無い!!作品の続き書かないとだし!!小説を書くには、物凄い時間が消費される。仕事をしながらの社会人ならば尚更だ。うちブラックだし。時間は貴重。
そしてそれは白雪さんだって同じはずだ......ていうか、多分俺より多忙で時間も無いはず。VTuberっていう活動自体もかなりの時間を使いそうだし、作曲とか歌ってみたとか生放送、その他にも色々とやることも多そうだし。
そんな中、俺に謝るためだけにわざわざ時間を割いてくれるとか......はっきりいって俺の為時間を使わせるのは申し訳無い!
だから、この文面だけで十分だと伝えて終わらせよう。その方がお互いのためだと思うし。
あの声が聴けるチャンスを失くすと思うと、ちょっと勿体ない気もするけど。
さて、適当な、当たり障りの無い理由をつかって御断りしよう。仕事関係が妥当か......えーと
『今日は仕事がおそく......』
と、文字を打ち出した時、スマホの片隅にある時計がふと目に入った。ん?え、あれ......これ
遅刻するやんけッ!!?
動揺する俺とその指。流れで予測変換にある文字を打ち込んでしまった。
『遅くなるので10時』
いや10時じゃねえ!?予測変換勝手に約束すんなし!!と、慌てて文字を消そうとする。しかし、遅刻しそうで靴を履きながら操作していたせいか、思うように消せない。的外れな場所ばかりタップする。
そして気がつけば『今日は仕事が遅くなるので10時』という文面で送信が押されてしまった。これが横着者の末路である。
――や、ややべえ、しょ、消去しなきゃ!!!
『わかりました! ありがとうございます、夜10時ですね! これ、私の番号です!』
時既に遅し。送られてきた返事と電話番号。
......まじか。
電話番号を教えて貰ってからの後戻りは流石にできないよな。と、頭を抱える俺だった。
そしてこの夜、登録者数143万人の大人気VTuberと通話する事が決定してしまった。
◆◇◆◇◆◇
朝のどたばたチキチキ遅刻レースを制し、無事仕事を終えた俺は、約束の時間に間に合わせるためマッハで家事を片付けていく。
そして、運命の22時。
胃から何かがリバースしそうになる程の緊張と、約束を守らないとという思いのせめぎあいの果てに、意を決して、スマホにて番号を打ち込んだ。
はあ......はあ......き、緊張する。
コール音が鳴り、心臓も高鳴る......ばくばくと。
『......――あ、あの。 もし、もし......?』
「あ......こんばんは。 は、初めまして、noranukoです」
『は、初めましてっ! 白雪ましろです!! よろしくお願いします!』
か、かわえええ~。
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