52.一つの樹を彩る雪
ぎゅうっと、温もり確かめるように。
「......一樹さん」
「......」
熱と共に想いが伝わるように。
「雪さん......寂しくさせて、ごめんね」
「......」
雪をはらうふりをして、そっと頭を撫でた。
気がつけば、雪さんが腰に腕を回している。
「私は、......っ......」
泣き出す雪さんの背中をぽんぽんとさする。
この練習期間、たくさんの辛いことがあっただろう。短期間での練習は雪さんの精神を消耗させたに違いない。
あのPCデスクがそれを物語っていた。様々な資料群に、疲れた声色。それら全てが彼女の心を表していたのに......
更には、妬み嫉妬、アンチによる攻撃もあっただろう。あれほどの人気を得たのだ。
そういう輩は必ずわいてでる。
それは、小説家もVTuberもイラストレーターも同じで、今回もおそらくはそういうものに傷つけられてきたはずだ。
だから、俺も知り得た事実なのに......何もできなかった。
だから、大切なモノを失いかけた。
「雪さん、たくさん頑張ってくれてありがとう。 雪さんの努力も痛みも......ちゃんとわかったよ」
「......ぅ、っ......」
それから雪さんが泣き止むのに五分くらいかかった。
そこまでの時間ずっと抱き合っていたから、寒くはなく、むしろ通行人の視線で暑いくらいだった。
これ、バカップルに見えてるんだろうな。もしくはケンカして仲直りしてるカップルか?
どちらにせよ、かなり恥ずかしい。
でも、離すわけにはいかない。
「あの」
落ち着いたのか、彼女は抱き締めていた腕をゆるめる。しかしまだ雪さんは俺の腕の中にいて、したから見上げるようにこちらを見た。
「......私、がんばれた?」
上目遣い。つり目なのがより可愛らしく思える。長いまつげが涙で濡れて、なんだか色っぽく感じた。
「うん。 すごく頑張った」
「そう......」
......何か言いたそうだな。
「だったら、ひとつ」
「ひとつ?」
「ご褒美が......ほしい」
「わかった......どんなのが良いかな?」
洋服?食事?......新作ゲームとか?何が欲しいんだろう。
雪さんになら、何でもしてあげたい。てか、したい。
「今度のクリスマス」
クリスマス......ん?
「私と、で、でで、デート......してよ」
......え。
予想外のご褒美に戸惑う。なぜならそれは俺にとってもご褒美であり、むしろ良いんですか?ってなもので......
「それは」
「い、忙しいならいいの! ごめん、困らせて......もう、大丈夫だから。 へへっ」
一生懸命、強がりの笑みを向けた彼女。
俺も笑顔をかえす。
「いいよ。 デートしよう」
「......」
「日にち、どうしようか。 雪さんの空いてる日教えてよ」
「......でも」
雪の笑顔が消え、うつむいてしまう。
「私、知ってる......一樹さん、疲れてるの。 お仕事だって忙しいのに、書籍化作業だって......それに私たちがお願いしたコミケの作品も」
なでなで、と頭を撫でる。
「......それはまあ、否定は出来ないけど。 でも、コミケは俺もやりたいって言ったしね。 書籍化作業は、雪さんも同じくらい......いや、雪さんのほうが頑張ってたから」
「気をつかってるの? 私が、こんな風になったから」
「違うよ。 ほんとにそう思ってる。 だから、感謝しかないし、何かしたいって気持ちがあるんだよ」
「......」
「あと」
あと、まあこれが本心だけど
「雪さんといる、共有する時間が大切だから」
雪さんがゆっくりとまた顔をあげた。
「......そうなの?」
「じゃなきゃ、こんなに側にいない......それに、抱き締めたりしない、よ」
――その時ふとあの日の事を思い出し、胸がちくりと痛んだ。
でも、この気持ちは本当だ。雪さんに対する、この「好き」は......俺の絶対だ。
「えっと、風邪引いたらデートできないし......帰ろっか? 雪さん」
雪さんは小さく頷き、不意に俺の左手、指先をそっと握った。
「......ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
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