50.綻び
なんとなしに太一と始めたBLごっこを聞かれてしまい、謎の怒りをあらわにする雪さんに追い詰められた俺たち二人。
ビシ――ッ!と壁やガラスにヒビが......気のせいか。しかしそれほどに、肌でビリビリと感じるくらいの圧が放たれている。
いや、こんなに怒ることある?
しかし許しを乞うても「怒ってない」の一点張り。こうなると厄介だ......隣の太一は頭を抱えてぶるぶる震えてるし、なんか小声で「神よ......神よ......」とか呟いてるし。
「......雪さん、今のは本当に冗談なんだよ。 ノリでじゃれあってただけで」
「ふーん、そっかぁ」
「......(すねてーら)」
「一樹さんってさ~」
「は、はい」
「......はぁ、もう良いよ」
なにがッ!言うならちゃんと言ってくれ。出来ることがあるならやるから!
......こんなことでケンカとかしたくないよ。
沈む気持ちと共に、俯く俺。今の雪さんには何を言っても無駄な気がする......。
くそ、なんでこんなことに......もとはといえば太一が変なノリで来るから!
そう思い視線を太一へ向けると、頭を抱えたまま太一の視線は此方へと向けられていた。いや、こわっ!ずっと見てたの!?
てか、正気に戻ってくれたのか......良かった。廃人まっしぐらかと思ってたから。
そして、その時、圧が無くなっている事に気がつく。
「あ、あれ? 雪さん?」
さっきまで目の前にいた彼女が音もなく消えていた。
◇◆◇◆◇◆
はあ、はあ......!
冷たい空気を肺に取り込み、白い煙となる。
これは焼けついてしまった心からあがる煙なのかな?なんて。
部屋を飛び出て、二人から逃げるように走っていた。そして家の付近、近くの公園通りまで来たとき、息が苦しくて足を止めた。
「......やっちゃった」
ぽろぽろとこぼれ落ちる涙。
「八つ当たりしちゃったよぉ」
この約1ヶ月、一樹さんの小説のイラストを担当するために全力で頑張ってきた。
そのイラスト練習も決して楽なモノではなくて、何度も心が折れそうになった。
けど......一樹さんも頑張ってるから、一緒に小説をつくりたいから私も頑張らないとって。
必死に頑張って......でも、一樹さん、何もほめてくれないんだもん。
なのに、帰ってみればいつのまにか家にいて、お兄ちゃんといちゃいちゃしてさ。
......寂しい。
冗談なのはわかっていた。けれど、どうしても小さなすれ違いと会えない時間が、寂しさを募らせていた。
なぜこんなにも寂しさを覚えたのか?答えは決まっている。
彼の心に私が居ない......そんな気がしたからだ。
お兄ちゃんが家を出たとき、実家を離れ、北海道から出て見知らぬ土地に来たとき、お姉ちゃんの笑顔を思い出したとき、お母さん......お父さんの顔を思い浮かべたとき。
そのどれと比べても、今のこの寂しい気持ちにはかなわない。
一樹さんと初めて通話したとき。
それが終わり、楽しかったなぁと思い返し......寂しくなったとき。
それからの日々、たくさん重ねた通話。
終わりがくるたび、感じる思い。
あの日、初めてリアルで会ったとき。
何故か自分が葉月だと明かしてくれなかったとき。
――全部
全部が、寂しくて......
だから、側に居たくて。
頑張ったのに......
......伝わらなかった。
でも、仕方ないよね。
一樹さん、仕事や書籍化でそれどころじゃなかったしさ。
だいたい面と向かって好きですなんて言ってないし......あ、そうだ。私、仲が良いからって、知らず知らずの内に彼女のような気でいた。
何も伝えてないのに、伝わる訳がないよ。
バカみたいじゃん、こんなの......てかバカじゃん。
二人から見たら、ほんとに意味不明に見えてると思う。
......ああ、私、これからどうしよう。
「雪さん――!!!」
「え?」
振り向けば、一樹さんの姿があった。
白い結晶が、ひらりと舞い落ちる。
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