40.ひとつの
あれから担当である白田さんとの打ち合わせを重ね、ラストファンタジアを売り出すための改稿作業が始まっていた。
流れがおかしい部分や、誤字脱字や意味用途違い。それら全てが赤ペンでチェックされ、そのなおし作業へと追われる。
これがかなりキツイ。
仕事をしながらで使える時間も限られている中で、全てを素早くこなすことは至難の業だった。
しかし、その一方、昨日とどいた真城(妹)さんからのメッセージ。
『イラストの修行に、プロの人のところへ行ってきます。 頑張ろー!』
本気で頑張ってくれている彼女の様子に、こんな忙しさにへこたれてなんかいられない!と、心が奮い立った。
てか、大人気VTuberに俺は何をやらせてるんだよ、と今更ながら思う。
俺、もしかして......真城さんの未来を歪めてないか?
真城(兄)さんの前に聞いた悲痛な言葉が頭を過る。
『妹の人生を狂わせた』
俺のこの身勝手な願いは、彼女の行く先を......狂わせてないだろうか。
俺は不安と共にぬるくなった珈琲を喉奥へと落としこんだ。
すると、ふと思い出した。先日のカフェでの話。
――いや。そうだ。
真城さんは「大丈夫」だと言った。信じよう。そして、俺は俺の出来ることを全力で頑張る。
今彼女の頑張りに応えるにはこれしかない。
これが成功したら、何かお礼をしよう。俺ができるお礼......何があるんだろうか。
――それから一週間が経過した。
「あとは16時からの配達が七件......ふう」
からだが重い。ここ最近まともに睡眠がとれていないのが原因だろう。おくった原稿に幾度となくはいる赤での直し。直しても直しても、終らない改稿作業......寝る暇がない。
「......でも、真城さんも頑張ってるんだよな」
真城さんの上達スピードは凄まじく、二日前におくられてきたイラストはラノベの表紙を飾っていてもおかしくないレベルに俺は思えた。
師匠は60点だと言っていたそうだが、厳しい先生だなと正直思った。
理由としては、無名の絵師にはプラスαがいるらしい。それは圧倒的画力、はたまたその人だけの雰囲気をもつイラスト、とにかくプラスαをみつけねばならないらしい。でなければ無数にいる技術の高い絵師に埋もれる事になる。
ちなみにT☆itterやSNSでのマーケティングもそうだという。そういう事が出来て初めて90点以上をつけられるのだとか。
厳しい世界だな、マジで。
信号が赤から青へと変わり、ゆっくりとアクセルを踏む。まるで自分のからだのように重く、のろのろと発進した車に少しだけ笑ってしまった。
帰り道、金見さんが心配をしてくれていた。
「あの、葉月さん。 みるからにオーバーワークな雰囲気してるんですけど......大丈夫なんですか?」
「ああ、ちょっと......書籍化作業がかなりのもので」
「成る程......でも体を壊したらもともこも無いですよ? 少し休んだほうが」
「......まあ、確かに。 心配、ありがとうございます」
「いえ。 今日って夕食はどうするんですか?」
「あー......コンビニ、かな?」
「なら! 家きませんか? 時間はとらせないのでご飯だけでも食べていってください!」
「え、いや......そんなの悪いですよ」
「その状態で断るほうが悪いです。 心配だし。 ご飯食べたらすぐ帰っても大丈夫ですから!」
「......う、うーん」
「私、言いましたよね......あなたの小説、ずっと読ませてもらうって。 そのためにはあなたには健康でいてもらわないと。 ほら、これ私の為でもあるんです。 来て下さい」
ホントに......気がつけばこうやって、この人は。
皆が倒れそうな俺を支え続けてくれている。
これに答えなければ......頑張るぞ。
「......わかりました。 それじゃあ、夕食いただいていきます。 ありがとう、金見さん」
笑顔の金見さんが元気よく返事をする。
「はいっ!」
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