37.戦い
「――で、上にあげてみるつって保留にして帰ってきたのか?」
今、私は編集部で上司に睨まれている。まあ、そりゃ睨まれるますよね。だって普通、無理だってちゃんと断らないといけない事なんだから......作家の希望でイラストレーターを選出したい、だなんて。
無精髭をひとなでして彼は言った。
「あー、まあ、そのnoranuko先生の言ってる事はわかる。 白田、お前の気持ちもわかる......けどなぁ、それが通れば他の作家達も同じ要求をしだすぞ」
「そう、ですよね」
うん、そう返されるの知ってた。でも、noranukoさんと絵師さんのあの熱量を魅せられたら、私も出来るだけの事をしたくなった。
アマチュアでありながら、プロ顔負けのイラストや小説を書く人は多くいる。けれど彼らは、技術こそ荒いけれど二人協力しその絆によりそれらをこえいるように思う。
他にはない魅力のある作品を作り上げた。なら、そこに懸かっている努力と想いは誰かがくんであげなければならない......そう思った。だから。
「でも、もし万一そうなれば......彼ら二人を組ませることができたなら、必ず凄いものをうみだしますよ」
「もしもも、万一も無い! たとえそうであろうが、決まりだ。 お前が今しなければならない事は俺の説得じゃない。 作家の説得だ。 行け」
く、やっぱりこうなるか~。どうすればあの二人をくませられる......どうすれば。
まだ、まだ時間はある。期日までに何か考えなければ。
◇◆◇◆◇◆
打ち合わせが終わり、真城さんに報告のメッセージをおくったところ、会って聞きたいとのことで近場のカフェへと足を運んだ。
飲み物をお互い注文し、一通り担当の白田さんに言われた話をする。
「成る程......そっか」
「うん」
カチャリと真城さんは、紅茶をスプーンでかきまわす。
「まあ、言われて見ればそうだよね。 私のイラストは趣味で描いたものだし。 売り物には難しいレベルだよね......」
「でも、かなり上手いとも言ってて......さっき話した条件の話、難しいよね」
――条件、それはあと1ヶ月で商品に適した画力になること。
「あと、1ヶ月......」
目を閉じた真城さんは腕を組み、頬をさするように手をあて首を傾ける。
「......1ヶ月」
イラストの技術をあげる、それはかなり長期間の時を要する。それは素人の俺にもわかるし、とてつもなく難しい話だと理解している。
だから無理なら仕方ない。俺のわがままで真城さんには無理をさせたくない。
「あの、無理なら言ってくれていいから......真城さんはVTuberの仕事だってあるんだしさ」
「そう、だね。 ちょっとお兄ちゃんとも相談してみるよ......またケンカになったら葉月さん心配させちゃうし」
「そうだね、それが良い。 でも、真城さんは自分の事を第一にね」
「ふふ、うんありがとうね」
「いや、それはこっちの台詞だよ。 ......イラスト描いて欲しいだなんて、無茶苦茶いってごめん」
いくら思い入れのある真城さんの絵だからといっても無茶苦茶だ。冷静に考えてみれば、本業でもないイラストを、しかも商業用をお願いするなんてとち狂ってるとしか思えないよな。
――でも、できるなら、真城さんのイラストでラストファンタジアは完成させたい。
多分、真城さんがデザインしてくれたノア達じゃなければ、作品自体が別のものになってしまう。そんな気がしているから。
ボーンボーンと、アンティーク品のふるどけいが鳴る。
「......あ、また」
「また?」
真城さんはにやりとイタズラな笑みで言う。
「また妙な引け目感じてる?」
「え、な、なんで」
「いやぁ、よく変な事で悩んでるしさ~。 この間も家に遊びに来てって本人が言ってるのに、迷惑にならないかなって、変に悩んでたし!」
あ、ああ。たしかに。
「うん、まあね」
「ま、そーいう性格だもんね、葉月さんは。 大丈夫、大丈夫だよ」
「え......」
「それで良いよ。 大丈夫、迷惑とかそんな風に思ってないから......心配しないで良いよ」
「あ......うん、ありがとう」
これじゃどっちが年上かわからんな。よほど真城さんのが確りしてる。うーむ。
「こっちみて」
「ん」
そう言い彼女は俺の頬を両の手のひらで押さえる。至近距離に真城さんの顔があった。
「大丈夫、だよ?」
にひっと花の咲くような微笑みで、俺の心を撃ち抜いた。
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