36.書籍化
俺は今、書籍化のお話をいただいた担当さんと打ち合わせに来ている。
あまりの緊張に、約束の時間の三十分前に来てしまい、珈琲をのみながら担当さんが来るのを待っていた。
余裕をもって来たというのに気持ちは急くばかりで、落ち着かない。
通話では優しそうで感じの良い人だったけど、リアルで会うのは初めてだからマジで緊張する。
「――あ、noranukoさん......ですか?」
横をみると、スーツに眼鏡の美女が立っていた。髪を後ろの方でまとめていてとても大人っぽく見える。
「......は、はい」
思いもしないの美人の登場に、動揺して目がザパンザパンとバタフライした。
「良かった! 初めまして、担当の白田 日菜子です。 よろしくお願いしますね!」
「こ、こちらこそ! よろしくお願いします!」
「......緊張されてます?」
「あ、はい。 こういうの初めてなもので......たくさん迷惑をおかけしてしまうかもしれないです」
「大丈夫です、私が全力でフォローするので、一緒に頑張りましょう!」
ぐっ、と拳を握り締め彼女は頷く。
「ありがとうございます」
「いーえー! こちらこそありがとうございます! 他にも打診は来てたんじゃないですか?」
「あ、はい、いくつか」
「ですよね、あの作品なら引く手数多ですよね~」
話をしていると、店員さんが担当さんの注文をとりにメモを片手に訪れた。
「ご注文はお決まりでしょうか~」
「あ、ココアください、ホットの!」
「かしこまりました」
「お願いしまーす!」
店員さんの去ったあと、俺は担当さんへと質問した。
「ココアお好きなんですか?」
「あ、ええ。 ココア飲むと気持ちが落ち着くと言うか......子供っぽいですかね? えへへ」
「いえ、美味しいですよね。 俺もたまに飲みます」
俺もココア飲みたくなってきた。次注文するか。
「それでは、通話でもお話しましたけど、まずは契約の確認......それと、スケジュール決めて絵師さんを選んで頂きます」
「はい、お願いします!」
それから担当さんと契約の説明、確認とスケジュールを決めた。商品化するにあたってやはり修正加筆は結構な量をやらないといけないので、決めたスケジュールは忙しくなる事を予感させた。
あとなろうでの連載と、コミケの作品作り......あれ、結構やばくね?
ま、まあ、頑張れるでしょ!うん!......がんばろ。
甘い香りをカップから漂わせ、打ち合わせは終わりに近づく。
「はい! ではでは、お待ちかね! お楽しみタイムですよ~!」
そう言うと、イラストを三枚机の上へ出した。
「これは......この三人から選ぶと言うことですか」
「そーですね! けれどイラストレーターさんの都合上どうしても請け負えない状況というのがあるので、優先順位を決めていただく形になります」
「どの人もイメージにあいますね......」
その言葉を受け、にやりと白田さんが口の端をあげた。
「でしょ! 私も一生懸命さがしましたからね、相性の良さそうな絵師さん!」
「マジですか、嬉しいな......うーん」
どの絵師さんも、かなりの腕前だ。この人たちが俺のラストファンタジアを描いてくれたら、どんな風なイラストになるのだろう。
わくわくしてくる。自分のキャラクターがイラストになるのはなろう小説家の夢だからな。
もし、これが大ヒットしてアニメ化する事になったら、そのイラストがモデルに使われるのか......動き回るノア達。観てみたい......。
でも
「あ、あの」
「おっ、決まりましたか!」
「俺の小説のために、たくさん尽力して頂いて、本当にありがとうございます......ただ、もしわがままが許されるなら、なんですけど」
「何ですか?」
「もし、出来るのなら......イラストお願いしたい人がいるんですが、無理ですか?」
――時が止まった。
白田さんはばつの悪そうに顔をしかめた。
「......難しいですね」
わかっていた答え。しかし、出来ることはしたい。
「えっと......お気に入りの絵師さんがいらっしゃるんですか?」
「あ、はい......この人なんですが」
「ふんふん」
スマホで彼女の小説朗読動画を開き、みせた。
「あ、これ......ああ、成る程」
「もしかして、ご存知ですか?」
「もちろん、あなたの作品関連の事は全部しらべてありますよ」
え、あ......そうか、この動画の事は感想欄に書いてあるから、そこから知ったのか。
「確かに、イメージが合致してますねその方のキャラデザは。 ふんふん......うーん」
「やっぱり、ダメですか? でも、動画をみてくれてる方々はこのデザインでイメージが作られてます......絵師さんはやりたいと言ってくれてます!」
前に真城さんに書籍化の話をした時、やれるならやりたいと言ってもらっていた。俺も出来るのなら、真城さんのイラストが良い。
俺の中でもノアや他の子達のデザインは真城さんが書いてくれたものになっている。だから、出来るのなら......。
「......確かに、この動画は有名過ぎるくらい有名だし、視聴者さんのイメージも固まっちゃってますよね......けど、うむむむむむ」
「お願いします!」
「......確約は、出来ないのですが」
マジで!?
「良いんですか!?」
「あ、いえ、条件が......えっと、まあ、その条件をクリアしたとしても、その絵師さんになるとは限りませんが......」
「条件、なんですか? なんでもやります!」
あれ、頭か抱えてない?白田さん大丈夫すか?
「あ、えーと......葉月さんではなくて、絵師さんの方にです」
「え」
「上手い絵師さんだと私も思います。 しかし、まだ商業レベルではないんです......なので、もっとレベルをあげて頂きたい」
「......レベルを」
俺は驚いた。この真城さんのレベルでも足りないのか、と。
「はい。 ......一応は、まだ時間もありますし、そーですね......1ヶ月ですかね。 それで難しそうであれば、この三人の絵師さんから選ぶ、と言うのはどうでしょう?」
これはおそらく最大の譲歩だ。
「......わかりました。 絵師さんと話をしてみます」
「お願いします。 あ、先ほどもいった通り、これがクリアできたとしても確定ではないので......そこの所くれぐれもお願いしますね」
「わかりました、それで大丈夫です。 無理言ってすみません......」
多分これ、かなり無理な話をしているんだと思う。その証拠にあれほど元気だった白田さんが、憂鬱な顔をしている。
おそらく今の話を会社にあげたときの事を考えているのだろう。無茶苦茶なお願いして、ごめんなさい。
「いえ、まあ、葉月さんの言うことにも一理ありますしね。 イメージは大切ですから......」
「はい、あの......話を聞いていただいてありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ長い時間打ち合わせさせて頂いて......そろそろ出ますかね」
「そうですね、行きましょうか」
白田さんと分かれたあと、真城さんさっきの話をするため連絡をいれる。
「――あ、もしもし。 真城さん、イラストの話なんだけど」
――二人の挑戦が始まった。
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