27.金見家
「――お疲れ様です! もう終わりそうですか?」
業務の閉め作業をしている俺に金見さんが言う。
「あ、もーすこしですね。 金見さんはもう終わったんですね、お疲れ様です!」
「ええ。 えーと、そしたら、手伝えるとこ手伝いますね!」
ぬ。今日も手伝ってくれて......優しいな。嫌な見方をすれば、見て見ぬふりをしていた頃の罪滅ぼしにも見えるけど。......いや、それはないか。
金見さんと関わるようになって約三ヶ月、毎日のランニングにお弁当やメニュー考案......色んな事をしてもらってる。
ずっとこの人を見続けてきたから、その優しさに裏が無いことがわかる。
「――よーし、これでオッケー。 あとは~、あ! 車清掃してきますね!」
「え、いいんですか......」
「はい! はやく家に来てもらわないと! あ、ていうか一緒に帰りましょう、そのまま家に来て下さい」
げっ、そ、それは、うーん。シャワーを浴びてく予定が。汗まみれの体で金見さん家にお邪魔したくないんだけど。
でも、そんな事いえないしな。うーむ。隙を見て休憩室のファブニーズ(消臭)でも頭から被るか?
「あー......はい、了解です」
「?」
それから二人で分担し、何だかんだ少しの残業にとどめることができた。二人でやったから早かったのか、金見さん要領が良かったからかわからないけれど、彼女には感謝しなければ。
職場を後にし、二人で暗くなった夜道を歩く。冬が近いせいか肌寒い。
「ふぅ、寒い。 これからどんどん寒くなってきますね~」
「ですね。 あ、冬の服......買わなきゃな」
体型が以前とはまるで別人のようにほっそりしてしまい、ほとんどきれる服が無い。これは近い内に何とかしないと......。
「あはは、そうですね。 すっごい痩せましたもんね~」
「ええ、金見さんが監督してくれたお陰です」
「いえいえ。 ダイエット、食事制限とかキツいのに良く頑張りましたよ。 そこら辺は食べようと思えば、隠れていくらでも食べれましたからね。 少なくともそれは葉月さんの努力があってのモノですよ」
「ふふ」
つい思い出し笑いをしてしまった。金見さんはこちらを不思議そうに見つめ、首をかしげた。可愛い。
「どうかしました? 私、何か変なこと言っちゃいましたか?」
「ふふ、はい。 前にですけど。 監禁するとか言ってたのを思い出して......くく」
「あー、あれか! 結構ヤバい発言ですよね、今思えば。 あはは」
「でも、ここまでのダイエットが苦じゃなかったのは金見さんが居たからです。 ありがとうございます」
にんまりと笑う金見さん。その頬が寒さで赤みがかっていて幼く子供のように見えた。
「ただいま~」
灯りの消えた店裏の扉を鍵であけ、入っていく。人ん家に仕事以外で入るのは抵抗あるな。いや真城家には入った事はあるけど。
「? どうしたんですか? 家、入ってくださいよ」
「あ、それじゃあ......お邪魔しますー」
ガタガタンッ!!
「「男ッ!!?」」
!? おそらくリビングと思われる場所と、すぐそこのトイレから叫びにも似た声が聞こえた。
バンッ!!とリビングの扉が開かれ、まるで獲物を探すかのようにキョロキョロと見渡す女性が登場した。いや、探すってかどう考えても玄関でしょ!居るの!
「お母さん、ただいま~」
やっぱり金見さんのお母さんか。するとその直後、トイレからガラガラガラッ!!とペーパーを激しく巻き取る音がきこえ、すぐにジャーッと流される音がきこえた。
バンッ!!とトイレの扉が開かれキョロキョロと辺りを見回す様は歴戦の狩人......いや、ここ!すぐ目の前!!
「お父さんもただいま~」
「おお、お帰り......そ、そちらの方は?」
「そ、そうよ、どちら様ですか」
あ、そうだよな。自己紹介せねば。
「初めまして、職場で一緒に働かせていただいてる葉月一樹です。 金見さんにはいつもお世話になっています」
「あはは、そんなかしこまらなくていいのに」
あ、つーか手土産的なの持ってきた方がよかったか?しまった。
......って、何で二人とも泣いてるんすか?
「ついに......彼氏のひとりも連れてこなかったこの子が」
「ああ、母さん......春音が、ついに」
そーなの!?めっちゃ綺麗だから彼氏いまくりだと思ってたんじゃが!!
世の男どもは何をしてるんや......こんな美しい人をほっとくとか。
「いや、お母さんお父さん! 勘違いしないでよ......てか恥ずかしい事ばらすなし! 葉月さん困ってるじゃん!」
「あ、ああ。 そうだね、恥ずかしいね。 母さんここは二人の邪魔をしないでおこうか」
「え、ええ、そうね。 えーと、そう! 何かあったら呼んでね? 葉月さん、春音ちゃんをよろしくね」
めっちゃにやにやしてる!二人ともめっちゃにやにやしてる!!
「あ、はい、わかりました!(?)」
「くっ、とりあえず私の部屋きてください。 荷物置いてからカットしましょうか」
「はい、わかりました」
なんだか楽しいご両親だな。
ギシギシと階段をのぼる。二階に金見さんの部屋があるみたいだ。
「――ごめんなさい」
「え、何が......」
「やー、お母さんとお父さん。 面白がってるから」
「ああ、大丈夫ですよ。 良いご両親ですね、楽しくて」
「そーかなー」
ガチャと部屋の扉が開かれる。金見さんがパチンとスイッチをおし、闇が消え明かりが部屋にみちた。
初めて入る女性の部屋(母、妹は除外)に胸がどきどきしている。――これいったらもう口利いてくれないかもしれんけど、いやなにこれ、すんげー良い香りが......。
へー、これが金見さんの部屋か......ん、って、え!?
可愛らしい明るい色で彩られた金見さんの部屋を見渡すと、驚きのものがそこにはあった。
「あれ......って」
「はい!」
あれが何の事を指していたのかわかったようで、金見さんは鼻息をふんすーと吐き出し(可愛い)、にやりと笑う。
「私が描きました! あのノアくん!! ふふん」
部屋の壁には、八枚のノアやその仲間の、つまり俺の作品のイラストが飾られていた。
これは......すごい、PCで描いたものじゃない。手描きの......画材はわからないけど、すげえ!線も丁寧で綺麗、色合いも金見さんのセンスが良いことを証明してるかのように美しい。
「......」
「あ、あれ......葉月さん? もしかして、気を悪くしました?」
「......いえ。 めちゃくちゃ上手いです......言葉にできなかった」
「ッ! そ、そんな......普通ですよ」
「普通じゃないです。 こんなに愛情を込めて描いてくれて......」
「す、好き......ですからね」
「金見さん」
「は、はいっ」
「ありがとうございます、凄くうれしい」
形で見える愛情。俺はまた執筆を頑張ろうと、気持ちを新たにした。
――ドタドタドタッ!!
その時、閉まっている扉の向こうから、バタバタと誰かが階段を降りていく音がきこえ、金見さんは笑顔から一変真顔になった。
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