3.初めての感想
「へぇ?」
間抜けな声が出た。
感想......まじで?
う、嬉し過ぎる!!そう思いながらその赤い文字を押そうとした時、ふと思った。
この時、ブクマ62、評価28(ポイントの推移的に10、8、10とつけてもらってる事から三人が入れてくれたのがわかる)
ブクマも少ない、評価も決して高いとは言えない。つまり、底辺作品であるこの小説に感想がくるなんて普通はありえない。
「......もしかして、批判コメントか?」
あかん、会社でのストレスがどす黒い何かへと変わろうとしている今、更に批判でのストレスが加われば俺は今度こそ筆を折ってしまうかもしれない。
これは怖すぎる。見ない方がいいか?でもこんな底辺であまり評価もついていない小説に批判コメントなんてつくのか?
ランキング上位とかだとアンチがついてたりして、批判されたりするけど。
それらの思考が相まって、赤い文字が危険な赤信号に見える。
とりあえず落ち着くことが先決だ。そう思いスマホをその場に置いた。気持ちを落ち着けるため、風呂へとおもむく。狭いけど一応湯船もある。お湯をためるのが面倒なのでいつもシャワーのみになっているが。
いつも通り俺はシャワーの栓をひねり、1日の疲れを洗い流すように頭から雨のように降り注ぐお湯を被る。
そして、ぼんやりと今までの投稿した作品を想う。
一作目はブクマ6、評価4、感想0
二作目はブクマ10、評価6、感想0
三作目はブクマ3、評価14、感想0
四作目はブクマ24、評価12、感想0、誤字報告1
小説投稿を始めて二年と数ヶ月。なかなかの戦績である。逆の意味で。二年でこれは辛いものがある。
そろそろ潮時かな......思えば好きで続けている小説投稿も、今ではストレスになりつつある。
それに、これ程の年月、何百万文字と書いてきた小説も文章力があがったような実感もないし、思ったように上手く書けてる気もしない。成長している気配も全然ない。
先のストーリーが思い付かずに悩み続けている時もそうだ。めちゃくちゃ苦しかった。
時間の無い中本当に読者がいるのかも実感できない中、書き続けている虚しさだってあった。孤独を実感して他の作者さんの感想欄を覗いては、何がいけないんだと悩んだ。
そうだ。
会社のストレスだけで手一杯なのに、これ以上は抱えられない。
――よし、とシャワーを止めた。
スマホの元へ戻ってきた、俺は覚悟を決めた。なろうの自分のページへと飛ぶ。心音がうるさい。
『感想が書かれました』
ふう、と呼吸をし、その赤い文字をタップした。
『良い点』
『主人公のノアくんが勇気や知恵を振り絞り、果敢に向かって行くのが、とてもカッコいいですね! 魔物側にもそれぞれの物語があって互いに正義があり、退けないというのも私好みでした。 ぜひこれからもあなたの物語を読ませてください! 応援しています!』
じわりと、手に汗を握る。知らぬ間に空いている手が拳に握られていたみたいだ。
嬉しい。こんなに明るい気持ちになったのは......いつぶりだろうか。
心音がまだどきどきと高鳴っている。興奮と感動が押し寄せる。
そして俺は驚いた。それはこの感想が応援してくれる好意的な物であったこと、それともうひとつ先程までのネガティブにまみれた自分が、感想を見た後で存在していない事に。
そろそろ潮時、ストレスになるなら筆を折る。辞めることばかりを考えていた自分が消された。このひとつの感想によって。
俺は思わずその画面をスクショ(スクリーンショット)する。
これは宝物だ、俺の。......そうか感想って、こんなにモチベーションが、やる気が上がるものなのか。こんなにも力になるなんて知らなかった。
書きたい!俺のこの話をたくさん書いて、続きを見てもらいたい!
込み上げてくる。感想の言葉、文字のひとつひとつが温かい......凄く。
......続き、書かなきゃな。弱気になってごめん。
「俺、頑張るよ」
勝手に冒険を終わらせようとしていた俺は小説の主人公、ノアへと謝り、気持ちを新たに出発した。
――そして、現在。執筆歴三年が経過した今、このハイファンタジー小説のブクマは121、評価139、感想3、誤字報告3となっていた。
この物語の主人公ノアと評価10をくれた人、そして優しい感想に支えられてここまでこれた。筆を折らずにここまで歩いてこれたのだ。
だから今日も眠い目をこすり、寝不足上等で物語を紡ぐ。この体が動く限り、ノアと共に前へと進む。
......そうだ、まだだ。まだ、頑張れる。
◆◇◆◇◆◇
「あ、葉月。 相変わらずぶっさいし、陰気オーラでてんなぁ~。 今日荷物多いからテキパキ動けよ? ただでさえお前仕事とろいんだからよ」
「はい」
今日、到着している荷物はかなりのもので、山のように置かれている。これを槙村が割り振りをして、受け取った配達員の俺達が配達へと出かけるのだ。
今日配達へと出るのは俺を含め三人。俺の他は女の人で、こうなると槙村は俺へと荷物を多めに押し付けてくる。そして、女性には「軽くしといたよ!」と恩を売るのがいつものパターン。
槙村は時間の指定があろうがなかろうがお構いなしにこちらへ押し付けるので、間に合わずにお叱りを受けることは多い。そしてその苦情は全て俺が処理させられる。
「......がんばるか」
スマホに画像で保存しているスクショを見る。これだけが今の俺の支えだ。
◆◇◆◇◆◇
「......やっと、終わっ、た」
時間は18時を回っている。定時はとっくに過ぎていて、また今日も残業になった。まあ、残業にならない日の方が珍しい。
今日のこれは流石に賃金発生するだろう......と思いたい。
「あー! やっと帰って来たのかよ葉月! お前大変だぞ!?」
「え?」
そこにあったのは積まれた荷物だった。あ、これ嫌な予感がする。
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